本作は、今を生きる女性が貧困であろうが裕福であろうが満たされることの困難さを物語っているように感じます。リキの生き方も、悠子の生き方も、
望めば望むほど“地獄”のような展開が待ち受けているのだから。
現状、一番幸せそうに見えるのは、リキの友人・テルではないでしょうか。奨学金による400万円以上の借金を抱えながら派遣社員の仕事と風俗を掛け持ち。定職に就かない遠距離の彼氏・ソムタを愛しています。やがてテルは自己破産してソムタと結婚し、彼の実家で共に生きていくことを決断。第6話ではソムタの子を妊娠したと報告します。相変わらずお金もなく不安ではあるが、生まれたら国に支援してもらえるし、ソムタと幸せに過ごしていると。彼女は自分の現状を、そのまま受け入れているのでしょう。

桐野夏生『燕は戻ってこない』(集英社文庫)
もちろん彼女が幸せになる保証はどこにもありません。でも彼女は満たされています。テルの描かれ方を見ていると、
現状を受け入れ、そのなかで生きることが最善のように見えてしまいます。リキと悠子は、そんな社会に押し付けられた最善ではなく、自分の“欲望”を貫くため、たとえ“地獄”だとしても戦い抜いてほしい。そう思うのは、同じように“欲望”を抱えている女のエゴなのかもしれません。
この物語を観ていると“代理母出産”という制度をもって、幸せになる人がどのくらいいるのか疑問に感じる視聴者は多いはず。一方で、第3話で悠子が語った台詞「人間の数だけ性も欲望も、色んな形があるのよね。だったら生殖だってそうでしょ。正解なんてない」にも納得感があります。しかし、それは絶対に誰かを傷つけたり、搾取したりして求めるものではない。リキと悠子の“欲望”の物語が、どんな風に着地するのか、この問題を考えながら見守りたいと思います。
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
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鈴木まこと
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:
@makoto12130201