今年の流行語大賞は朝ドラ『虎に翼』の“必殺フレーズ”か。日本社会の風通しを良くするワードとは
憑依型の演技というより能楽師タイプの演技
この発言からわかるのは、寅子が発する「はて」を役柄として理解しつつ、伊藤自身の「はて」への解釈はいったん、留保されていること。
つまり、伊藤がひとまず「はて」を発する時点では、正確には俳優の気持ちとキャラクターの感情に完全にはコミットしていない。そのとりあえずの「はて」のあとから、じわじわ伊藤の感情が寅子に追いつく演技フロー。
俳優とキャラクターがここまで自然と一致する例は珍しい。これはどこか喜怒哀楽に役者の心身があとからコミットする能楽師の演技に近いと思う。寅子を演じる伊藤は、憑依型の演技というより能楽師タイプの演技なのだ。
寅子オリジナルではない?
それがどうだろう、第10週第46回で司法省の事務官として勤務するようになってからの寅子の変わり様は。女性初の弁護士になったものの、苦戦の連続だった。佐田優三(仲野太賀)との子どもをみごもり、休業を余儀なくされた。
彼女の悔しさは戦後、事務官の仕事で再び解放されるはずが、まるでイップスのように「はて」が出てこない。代わりに、無感情の「スンッ」状態になってしまう。でもそんなとき、明律大学の恩師・穂高重親(小林薫)が事あるごとにトンチンカンな物言いをするものだから、拍子抜けした寅子の「はて」が復活する。
第49話、覚醒したかのように「はて」を連発する寅子の清々しさったらない。でもこの「はて」、実は伊藤扮する寅子オリジナルのフレーズではないのかもしれない……。
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