
寅子のことを遠くからじっと見つめるということでは、過去に明律大学の本科に上がってきた女子部の面々を冷笑する花岡悟(岩田剛典)の視線を思い出す。だけど、航一の場合は、どこかにうっすら気味悪さを感じる。
でも不思議と心地よくもある気味悪さだ。航一の視線に寅子が気づく。ゾクッ。割と長めの間があってから、航一は、「なるほど」とその場から動かずに第一声を発する。彼の後ろ姿から肩越しの寅子、顔のアップが次々写る。
細かい5カットのカット割りで印象づけられるのは、星航一という人物の捉えどころのない独特の空気感。そのあと、寅子と航一は長官室に入り、ソファに腰掛ける。対面場面で、彼の風変わりな感じは、さらに強調される。
星長官に代わって航一が相手をする。長官は急用で不在。そのため、改稿作業は寅子と航一で着手することを説明される。自分のテンポ感で話を展開する航一に対して、寅子は困り気味の表情。
これまで聴き馴染みのない不思議なムードの音楽まで流れる。ひょっとしてこれは星航一のテーマ曲なのか(?)。初登場からまだ数分しか経っていないというのに、この人のキャラクターをどう掴み、理解すべきか。寅子同様に困惑している視聴者も少なくないだろう。
すると、尾野真千子によるナレーションが、寅子の心の内を代弁する。「この人、何だか」、「とっても」、「すんごく」と続き、「やりづらい」。そう、困惑の正体は、この「やりづらい」にあるのだ。
航一は、長官の息子というだけでなく、横浜地裁の判事だというから、それなりの実力の持ち主ではあるのだろうけれど、でも、いかんせん捉えどころがない。ミステリアスというか、ファンタジーっぽいホラー的雰囲気の人というか。その辺りの複雑な、でも軽やかに曖昧な人となりを岡田将生が実にうまく表現している。