Entertainment

NHK『あんぱん』24歳俳優の告白シーンで思い出す“戦争前夜”。二人の背後から追うカメラが

最初に伴奏してくれた海辺のギター弾き

NHK『あんぱん』©︎NHK 健太郎はメイコの協力を得てみんなを海に集める。「何か歌うばい」と言って健太郎がギターをポロリンポロリン。その隣でメイコが歌う。ありきたりな青春の場面といえばそうなのだが、日本が太平洋戦争になだれ込む前夜の景色だと考えると奥深い。  第92回ではのど自慢に出場する練習のため、喫茶店の常連客・いせたくや(大森元貴)のピアノ伴奏で「東京ブギウギ」を歌う。ちょっとした歌唱のポイント指導があったりするのだが、一番最初に伴奏してくれたのは、海辺のギター弾きに扮した健太郎だった。  演奏を終えた健太郎がメイコに「心が綺麗に洗われるようばい」と絶賛する。そう言われた瞬間、メイコは恋する乙女になった。ほてる頬をぱたぱた両手であおぐ。  先を歩く健太郎に追いついたメイコが並んで歩く浜辺のツーショットが何とも慎ましい情感を醸す。その情感を持続させるようにカメラがそっと二人の背後から長回しで追う動きもいい。

ピンぼけのツーショットに浮き立つ高橋文哉

 この海辺の名場面を前半部のハイライト、メモリアルとして、本作は戦中を駆け抜ける。戦後の第15週で上述したように健太郎は嵩とともに生計を立てた店をたたみ、健太郎とメイコの発展途上の恋の行方は一度棚上げになっていた。  そこで第92回の再会場面。今度こそ成就するんだろうなという空気感。健太郎はメイコの恋慕にまるで気付いていないが、きっと温かく受け止めてはくれるだろう。二人が蜜月関係になる告白場面はどう描かれたか。  第93回、蘭子に促されてメイコはやっと気持ちを伝える。それでものど自慢の予選で失敗して傷心の彼女が気持ちを伝えるには多少時間がかかる。素直になれないメイコが健太郎に背を向ける階段の場面。前に立つメイコと後ろで見上げる健太郎が斜めの構図でツーショットになっている。  階段を駆け上がるメイコ。追う健太郎。階段上でもう一度ツーショットになる。画面奥にいる健太郎はピンぼけ。「メイコちゃん……、ごめん」の「ごめん」を発する瞬間ぎりぎりまでためてためてやっとピントが合う。  そういえば、第14週第67回で雑誌を読む嵩を後ろで見つめる健太郎も印象的なピンぼけ画面で写っていた。今度はしっかりピントが合う階段上の告白場面だが、ピンぼけのツーショットに浮き立つ高橋文哉の魅力というものがあると思う。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ