その静かな連帯の中で、彩芽さんはその男性から受けたストレスで疲れがピークに達してしまったようで……。
「
気がついたら、その男性の前に立って『ちょっと、すみません!』と声が出ていました。車内は静まり返り、男性がこちらを見て“え?”という表情で……そこで急に我に返ってしまい、どうしよう? って心臓の鼓動がどんどん大きくなっていったんですよ」
動画撮影男性と乗客達が彩芽さんに注目し、何を言うのか緊張しながら待っているのを感じたそう。
「焦った私は何を思ったのか『
動画は家で撮ったほうが……もっと再生回数伸びると思います!』と意味不明なことを言ってしまったんですよ」

※画像はイメージです
ですがその男性は一瞬固まり、それから真顔でうなずきました。
「『
そうかな? あ、照明とか大事ってこと? たしかにそうかもしれない』ってスマホをしまってくれて。意外と前向きに私の言葉を受け止めてくれる素直な人で助かった〜! と思いましたね」
車内に静けさが戻ると、空気がふと軽くなり、向かいのおじさんが小さく「助かった」とつぶやき、女子高生が目だけで“ありがとう”と笑った気がしました。
「私は突飛な行動を取ってしまったことに動揺して思わず赤面してしまい変な汗をかいてしまいましたが……でも、
ちょっとスッキリしてる自分がいたんです」
電車を降りたあと、夜風がやけに気持ち良く感じたそう。
「今までずっと迷惑客に遭遇しても関わらないのが一番だとだんまりを決め込んでいたので、何だか自分の殻を破れたみたいな感じがして嬉しかったんですよね。でもまぁ、今回は疲れ過ぎていてつい口が出てしまっただけなのですが(笑)」
彩芽さんは、
その時のことを思い出すと恥ずかしさよりも“やってみてよかった”という感覚が勝るといいます。
「これまでの私は迷惑な状況に黙って耐えるしかなかったけれど、少しだけ自分から関わる勇気も持てるんだな、と気がつくことができて。もし次に似たような場面に出くわしたら、きっともう少し落ち着いて対応できそうな気がするんですよね」と微笑む彩芽さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
@skippop