
壁に貼られていた、結婚式のシーンでの集合写真を拡大したもの。なぜかちゃっかりいる私(右)
渡鬼の現場はプロフェッショナルの集まりで、温かくも厳しい空間でした。私は負けん気も強ければ神経も太かった(らしい、自覚なし)ので、例え叱られても、芝居がうまくいかなくても、くじけることはまったくなかったんですね。
現場では泣いたって何にもなりません。泣いてセリフを噛まずに言えるわけでもなし、集中力が切れるか、座組全員に迷惑をかけるか、己が鼻声になるだけです。でも、一度だけセリフがまったくうまく言えず、真っ青になって、涙がぼろっと出たことがあります。
そのときは普段俳優全員を気遣ってくれるYさんから、大丈夫か、とかではなく、一言、「いけるな?」と静かに言われました。涙を振って(こするとメイクが落ちるので)「いけます!」と言ったことを覚えています。メイクさんが小鼻の赤みや崩れた前髪を直してくださり、もう一度の本番。無事、演じ切りました。
プレッシャーや悲しみではなく、自分のふがいなさが悔しくて涙がこぼれてしまったことを、お見通しだったのです。
山岡久乃さんや藤岡琢也さん、宇津井健さん、池内淳子さん、Yさんを頼りにしている方々は、向こうにもたくさんたくさんいらっしゃると思います。
そちらに行ったからってお休みになれるかどうか分かりませんが、まずはゆっくり休んで欲しいなと思います。Yさんの気遣い力は私の人生の大きな指標です。

村田雄浩さんと。『AI橋田壽賀子 渡る世間は鬼ばかり 令和版』(BS-TBS)にもご出演
「おやじバンド」でお世話になった村田さんとも久しぶりにお会いし、たくさんお話することができました。当時はおやじバンドの皆さんは常に黙々と練習なさっていたので、話すチャンスもあまりなかったですから。
会場にはおいしいものがたくさんあり、お酒をゆるやかに飲みながら、思い出話に花が咲き、大人の悼み方を知った気分でした。「また会おう」「元気でね」と言いながら解散。

お食事の一部。いっぱい食べました
思い出して、振り返って、また生きなきゃ、と背筋を伸ばす。久しぶりに会った人と、何か約束をする。
お別れはいつだって寂しいですが、そこから小さく泡のようにまた何かが生まれるのだと感じた、月のきれいな夜でした。