「タイトルが卑猥」「男性器を笑いものに」ベストセラー覆面作家が語る“批判との向き合い方”と“執筆をつづける理由”
主婦と作家の二重生活
──『夫のちんぽが入らない』の内容が内容なだけに、旦那さんにはいまでも執筆活動を隠されているそうですね。日常生活に支障はありませんか?
こだま:家族には今も伝えていません。身近な人に自分の本心を知られたくない気持ちが強く、性的な内容じゃなかったとしても内緒にしたと思います。これまでの日常を崩したくないので家事はきちんとやるようにしています。ある意味、二重生活です。
ただ、夫からは時々「悩みもなく、気楽でいいな」と皮肉を言われるし、私が頑張って作った料理を一口食べて残す、みたいな腹が立つこともある。でも、そのたびに「私も夫には言えない内容の本を書いている身だ」と思い出して、気持ちを落ち着かせています。隠し事をしているぶん、どこかで帳尻を合わせる。友人には「それ、不倫してる人の心理に近いよ」と言われたりもします(笑)。
──最後に、「自分もいつか文章を書いてみたい」と思っている人に向け、ひと言いただけますか。
こだま:「気になることはやってみたほうがいい」と心から思います。私もネットの中だけで完結していた書く行為から、一歩外に出て文学フリマのような場所で書いている人たちの姿を目の当たりにして、意識が大きく変わった。今作の『けんちゃん』もまた、一度挫折した教育現場で再びやっていけるだろうかと悩んだ末、思い切って応募した特別支援学校の求人がきっかけで出会えた人たちとの話が土台になっています。
作家になれるかどうかは別として、「書くのが楽しい」と思えるだけで生活は豊かになります。肩書きや結果にこだわらず、「書くことが好きでいられる生活」を続けてみてほしい。その先で道が開けなかったとしても、その時間自体がきっと心の支えになると思います。
【こだま】
作家。私小説『夫のちんぽが入らない』でデビュー。同作はNetflix・FODでドラマ化されるなど大きな反響を呼んだ。また、エッセイ集『ここは、おしまいの地』は第34回講談社エッセイ賞を受賞した。その他著書に『いまだ、おしまいの地』『ずっと、おしまいの地』『縁もゆかりもあったのだ』がある。本作『けんちゃん』が著者初の創作小説となる
<取材・文/田中 慧(清談社) 撮影/杉原洋平> 1
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