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「家族の話をすると記憶が消える」「手に熱湯をかけても何も感じない」24歳・虐待サバイバーが語る“PTSDのリアル”<後編>

暗闇にワープしたような感覚

山本楓さん カウンセリングにより、山本さんは虐待サバイバーだと自覚できた。ただ厄介だったのは、これまで感じてこなかった痛みが、徐々にわかるようになったことだ。虐待を受けてきたと自覚が芽生えたことで、皮肉にもPTSDの症状がよりはっきりと現れるようになる。  特に顕著にみられたのが、フラッシュバックだった。 「フラッシュバックを起こすと、視界が急に暗くなったり、周りの物音が一切聞こえなくなります。喩えるなら、急に真っ暗闇の部屋にワープするような感じでしょうか。いったんその状態に陥ってしまうと、暗闇のなかでひたすら耐えるか、気づいたら自傷行為をしています」  これまでに示した「会食恐怖症」や「過呼吸」、「家族の話をすると記憶が抜け落ちる現象」も、フラッシュバックと併発する場合が多いという。虐待の渦中を抜けてなお、日常生活の随所で過去の記憶が顔を覗かせる。  山本さんを困らせたのは、こうした症状が周囲に理解されづらく、実生活に支障をきたす場面があることだ。  会社での会食はなるべく断らざるを得ない。たまに参加した際は、周りから食べないことを指摘されるも誤魔化す他ない。会議室などで他の社員と密室にいる環境では、急に上司が父と重なり、父の怒鳴り声が思い出されることもあった。  現在は、社内の産業保健師を通じて、一部の上司にPTSDであることをカミングアウトしている。現在はほぼテレワークで、対面で人と関わる局面を減らしつつ、安心して仕事をこなせる環境を整えているが、PTSDの症状がおさまる気配はない。

家族とはほぼ絶縁状態

 家族のことを思い出さないよう、どうしても必要な場合を除き極力連絡は取らず、母や姉からの着信も拒否している。 「母や姉は『家族なんだから連絡ぐらい取りなさい』と、何とかして連絡を取ろうとしてくるのですが、私は断固として拒否しています。 役所などの手続きなど必要な場合のみ、実家に連絡するのですが、その際はほぼ必ずフラッシュバックを起こすんです。私が一人暮らししている部屋に、母と姉が駆けつける幻覚を見て、気づけば記憶が失われて自傷行為に走っているんです」  治療に取り組みたいと考える一方で、状態によっては「家族等の関わりが必要になるのでは」と不安が付きまとい、通院に踏み出せない日々が続くという。  山本さんは関わりを断ちたいと考えているが、家族は接触を図ろうとする。加害者である家族が、被害者である山本さんの心情を汲み取れていないことで、余計に傷を深めているようにも映る。  ただ、こうしたもどかしさは、山本さんのケースに限った話ではない。言わずもがな、多くの虐待は家族間や夫婦間など近しい関係で起こるからこそ、虐待サバイバーが抱える感情は複雑になり、傷も根深く残り続けていくのかもしれない。 <取材・文/佐藤隼秀>
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