実はヨシ子が電話していたのは、<真夜中のラジオ電話相談室>。拍子抜けする夫ですが、ヨシ子がかけた一本の電話が、様々な場所で波紋を広げます。
ヨシ子が相談した内容は何だったのか? 回答はどうだったのか? それはヨシ子にとって死ぬほど厳しい現実であり、再生のきっかけにもなるのです。また、読者の私達も思わず胸に手を当てて、自分にも当てはまるのではないかと、怖れとともに振り返る瞬間でもあります。
私は、私の人生を生きている? 妻でも母でもない、夫や子供と無関係の、素の自分が望む、本当の人生。
真夜中、ラジオ番組に相談した後、ヨシ子は赤いリボンをつけた猫のサンダルをつっかけて、町を飛び出します。町と夫と呪縛を捨てて、歩き出すのです。
「執筆のきっかけはラジオの人生相談だった」と、作者の野原広子さん(
婦人公論.jpのインタビュー、2026年02月27日)。熟年離婚を望む女性はかなり多く、ではなぜその年齢まで結婚にしがみついたのか、どうして自分だけの幸福をつかもうとしないのか。
同インタビューによると、実は野原さん自身も、5年ほど前のアラフィフの頃に熟年離婚をしたそうです。
結婚というカテゴリーに自分を閉じ込めて、自分の人生を無きものにしているのは、実は自分自身かもしれません。
妻でも母でもない、本当の私の幸せって? 改めて考えさせられる一冊です。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
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