そして男性は、その恐竜を男の子へ差し出しながら「ターザンより、折り紙しない?」と穏やかな声で言いました。

「怒鳴るでも頭ごなしに叱るでもなく、男の子の興味を自然に別の方向へ向けたのが分かって、ハッとしましたね」
すると男の子はすぐに恐竜を受け取り、先ほどまでの騒ぎが嘘のように座席へ腰を下ろしました。そして男性に教えてもらいながら、一緒に紙飛行機を折り始めたそう。
「男の子は男性に教えてもらいながら、夢中になって折っていて。さっきまで車内で響いていた騒ぎ声が嘘のようでしたね」
それまでピリついていた車内の空気も、柔らかく変わっていきました。
近くにいた乗客たちも、チラチラと2人の様子を見守りながら、どこか安心したような表情を浮かべていたそう。
そしてしばらくすると、男性が窓の外を見ながら「俺、次の駅だから」と降りる準備を始めました。
すると男の子はハッとしたように顔を上げ、少し寂しそうな表情で「お兄ちゃん、また会える?」と尋ねたそう。
「その姿がすごく可愛らしくて。なんだか私まで胸がキュンとしてしまいましたね」
すると男性は少し照れたように笑いながら「うん、静かに電車に乗れてたらな」とだけ言って、軽く手を振りながらホームへ降りていきました。
「その注意の仕方が優しくてとてもスマートだったんですよね。そして折り紙の完成度と男性のオーラのある感じから、何かしらのアーティストさんなのかも? と思ってしまいました」
その後、男の子は折り紙の恐竜と紙飛行機を交互に見つめながら、嬉しそうにニコニコしていたそう。
「そして男の子はもう吊り革にぶら下がることもなく、車内には平和な空気が流れました。私もつい影響を受けて、スマホで恐竜の折り方を検索してしまいました。かなり工程が多くて難しそうだったので、私には無理だなと思いましたが」と微笑む夏菜さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>