するとその時、近くで宿題をしていた小学2年生の息子・悠斗くん(仮名)が、ふいに顔を上げ、純粋な目のまま「じいじって、なんでママにありがとう言わないの?」と質問をしました。
一瞬で、部屋の空気が止まりました。義父は「は?」と眉をひそめます。もちろん悠斗くんは悪気ゼロです。

そして、むしろ不思議そうに首を傾げながら 「だってママ、ずっと動いてるよ? 学校で“やってもらって当たり前って思っちゃダメ”って習った!」と悠斗くんが続けると、綾乃さんの心臓が跳ねました。
「悠斗は私のことちゃんと見ていてくれたんだなって、涙が出そうになってしまって」
義父は気まずそうに咳払いをし、「大人には大人のやり方があるんだ」と笑って誤魔化そうとしました。けれど悠斗くんは納得できなかったようで、「じいじ、ありがとう言わないのに、文句はいっぱい言うよね?」とさらに追撃。
その瞬間、義母がブフッとお茶を吹き出し、夫まで下を向いて肩を震わせ始めたそう。
「義父の顔はみるみる真っ赤になり、いつもなら怒鳴るところですが“子どもの素朴な疑問”には、さすがに反論できなかったみたいで」
しかも悠斗くんは最後のトドメのように「ママの方が働いてて偉くない?」と真顔で言い放ちました。
義父は完全に黙り込んでしまったそう。テレビの音だけが流れる中、義父は居心地が悪そうに視線を泳がせ、さっきまでの威勢の良さはどこへやら、しばらく口を開くこともできませんでした。
そして帰り際。いつもならソファから動かない義父が、珍しく玄関まで来たかと思うと、小さな声で綾乃さんに、「今日は、ご苦労さん」と言ったそう。
「思わず耳を疑いました。たぶん人生で初めて、義父から労いの言葉をかけられた驚きと、悠斗の優しい気持ちがこの状況を好転させてくれたんだなという感謝の気持ちが溢れ出してきましたね」
「子どもの何気ないひと言は、大人が諦めてしまうような相手さえも、動かす力があるんだなぁと感動してしまいました」と微笑む綾乃さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>