――加害者にならないために、というテーマでお話を聞いてきました。性被害を防ぐために、親としてできることはありますか?
櫻井:性被害を完全に防ぐことは、とても難しいと思っています。加害者は用意周到にターゲットを選び、時間をかけて近づいてきます。とくに「グルーミング」と呼ばれる手口では、子どもの話を親身に聞き、信頼関係を築いたうえで犯行に及びます。そうした手口を見抜くのは簡単ではありません。加害者は、子どもの「話を聞いてほしい」「わかってほしい」という気持ちを利用すると言われています。
――親としては、どうすればよいのでしょうか。
櫻井:保護者が日頃から子どもの話を聞く存在でいることが大切だと思っています。もちろん、「親が話を聞いていれば被害を防げる」という単純な話ではありませんし、「聞いていなかったから被害にあう」わけでもありません。でも、子どもをターゲットにする加害者は孤立していたり、満たされない何かを抱えている子を狙うと言われています。そういう子がグルーミングしやすいためです。
保護者も何かと多忙なのでいつでも手を止めて子どもの話を聞けるわけではありません。前回記事でもお伝えしていますが、余裕がないときは、「今は難しいけど、あとで聞かせてね」でも良いと思います。ほんの少しの時間でも大丈夫です。「あなたの話を聞きたいと思っているよ」というメッセージだけはどうにか伝えておいてほしい。その積み重ねが、「話を聞いてくれる人がいる」という安心感につながりますし、不安や違和感を覚えたときに相談できる関係を育んでいくのだと思います。
――最後に、お二人にとって性教育とはどのようなものなのでしょうか。また、家庭で性教育に向き合う親御さんにメッセージをお願いします。
櫻井:性教育というと、生殖の仕組みや妊娠、性感染症の話を思い浮かべる人が多いと思います。でも、それは性教育のほんの一部にすぎません。本来の性教育は、自分と相手の心と身体を大切にすることや、人との関わり方を学ぶものです。自分のことも他者も尊重する生き方は、子どもだけでなく大人にとっても必要なものだと思います。
親がすべてを知っている必要はありませんし、完璧である必要もありません。子どもと一緒に学んでいく姿勢が大切ですし、ときには子どもから教わることもたくさんあります。気負わずに、まずは生活のなかの小さな関わりから始められるといいですね。
斉藤:性教育の「性」は、「生きる」という字の「生」でもあると思っています。子どもたちはこれから、さまざまな壁や困難にぶつかっていきます。失恋をしたり、受験に失敗したり、思い通りにいかない経験もたくさんするはずです。そうした経験も含めて、生きていくうえで必要な力を育てることが、広い意味での性教育なのではないかと思っています。自分のことをきちんと語れる言葉を獲得し生きていってほしい。それが、今の私が子どもたちに伝えたいことです。
========
性教育は、特別な授業の中だけで完結するものではありません。おむつ替えのときの「替えるね」という一声や、写真を撮るときの「撮ってもいい?」というひと手間など、日々の何気ない関わりの積み重ねの中にこそ、その土台があります。
親がすべてを知り、教える必要はありません。子どもと一緒に考え、一緒に学んでいこうとする親の姿勢。それ自体が、子どもにとって最も大きな生きる支えになるはずです。
【斉藤章佳(さいとうあきよし)】
西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士/社会福祉士)
1979年滋賀県生まれ。大卒後、我が国最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、25年にわたりアルコール依存症を中心に様々なアディクション臨床に横断的に携わる。その後、2024年10月から現職。専門は加害者臨床で現在まで3500名以上の性犯罪加害者の治療に関わり、その家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。最新刊として『
校内盗撮』(集英社インターナショナル)が8月7日に刊行される。
【櫻井裕子(さくらいゆうこ)】
助産師(さくらい助産院開業)
産後ケア、養育支援、看護・助産専門学校非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生や保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間150回以上実践。2021年より斉藤氏と共に性犯罪加害者臨床で包括的性教育を行っている。
著書に『10代のための性の世界の歩き方』『性的同意は世界を救う』『
10代のための「性と加害」を学ぶ本』共に時事通信出版局。
<取材・文/大夏えい>
大夏えい
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。