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文豪のエロ描写はやっぱりすごい『日本の官能小説』

「セックスとは書くものではなくするものだ」とは作家・筒井康隆の名言。だとすればやっぱりカクしかないじゃん。などと冗談も言いたくなるほどに、この世には数多くの官能小説があります。

 その名もずばり『日本の官能小説』の著者・永田守弘は年間300篇もの作品に目を通すという、エロ文学界きっての読み手。1945年の終戦から現在に至るまでの70年で「性表現はどう深化したか」という壮大なテーマのもと、数々の名作から引用された濡れ場を楽しめる一冊となっています。

日本の官能小説 ところで官能小説と聞いて思い浮かべる表現はだいたいこんな感じなのではないでしょうか。

<涼の肉棒が、亜紀子の子宮を、ズンと勢いよく突いたのである。>
(『メス猫の葬列』丸茂ジュン)とか、

<溶けうるんだ膣内の沼に巨根の先端をあてがわれた瞬間、水城はひと思いに、ぐっと付根まで埋めこませてやった。「うっ……あひいっ」瑠美香の上体が、のけぞり返った。>
(『欲望情事社員』南里征典)とか。

ダイレクトでないほうがエロい



 これらはもちろん読者へのサービスで分かりやすく表現されているわけです。しかし本書が言外にほのめかしているのは、そうではないエロ。ダイレクトな卑猥さから遠く離れたところでなければ、いやらしさは再現できないのではないかと。

 1946年にベストセラーになった医学書『完全なる結婚』は、翻訳体と客観描写の徹底が読者の想像力を刺激します。

<性交(時にこの用語を人は、狹義の性交として用ゐる事は出来るが、その際勿論誤解される可能性がある事を計算に入れなければならない)は、陰莖を膣に挿入することに始まり、兩方が快感を貪る事により絶頂に達し、精液を射出と、之が受容とに於て目的を果す。陰莖が膣を離れ去る時に性交が終る>

 特に「陰莖が膣を離れ去る」という言い方は情緒的です。

「下からぐひぐひと突き上げながら…」



 同様に冷静な文章を使いこなすのが文豪と呼ばれる人たち。本書では芥川賞レースにも関わった純文学の書き手による作品も紹介されています。

<その、まわした指で、あたしの、いちばんビンカンな部分を、コチョ、コチョコチョッ と……。 「ああ」と、あたし、息を吐いちゃった。
 そうしておいてから、この人、うしろにあてがったものを グッ と……。あっ 深いわ あたし、息をつめた。>
(『内助の功』宇能鴻一郎)

 “亀頭”だの“膣”だの、一切出てきません。それなのにいちいちエロい。十分にタメを取って音読するとさらに効果的でしょう。

 しかしもっとすごいのが永井荷風。セックスへの甘ったれた感傷など見向きもせず突き進みます。

<両手にて肩の下より女の身ぐッと一息にすくひ上げ、膝の上なる居茶臼にして、下からぐひぐひと突き上げながら、片手の指は例の急所攻め、 尻をかゝえる片手の指女が肛門にあて、尻へと廻るぬめりを以て動かすたびたび徐々とくぢってやれば、女は息引取るやうな声して泣きぢやくり、いきますいきます、いきますからアレどうぞと哀訴するは、 前後三個処の攻道具、その一ツだけでも勘弁してくれといふ心歟>
(『四畳半襖の下張』永井荷風)

 こんな文章を前にしたら「ぐひぐひと」読み進めるしかないわけですが、同時に現代人がいかにセックスや恋愛に対して過剰な意味付けをしているかを思い知らされる文章でもあります。この乾いた疾走感には寒気と心地よさが混在しているように思うのです。

<TEXT/比嘉静六>

日本の官能小説 性表現はどう深化したか

戦後70年を彩った官能作品の潮流。大きく解放された「性の世界!」ギラギラの戦後発展史を検証。官能小説研究の第一人者による肉棒文化の集大成。




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