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息子のイタズラ癖で知った団地のあたたかさ【シングルマザー、家を買う/56章】

おじいちゃんの“なんでも釣れる釣り竿”

 おじいちゃんは「あ~、また投げちゃったの!」と言うと、私に長い釣り竿を貸してくれた。 「この釣り竿はなんでも釣れるんだ。昔、俺はこれでいろんな魚を釣ったんだぞ。その魚拓を見るか? あ、どこにあったかな~」とまた部屋に入ること10分、立派な魚拓を見せてくれた。 シングルマザー、家を買う/56章_2「わぁ、すごいですね~! これで釣ったんですか!」  私は素直に感動していると、おじいちゃんはその釣竿を私によこしてくれた。 「だから、息子くんが投げた洗濯物も、全部これで釣れるはずだよ」  おじいちゃん……優しい! 私は遠慮せず釣り竿を借りて、2階にひっかかったバスタオルをピックアップすることに成功した。  息子はそれを見て「おおお!」と感動しパチパチと手を叩くと、おじいちゃんは「な! 本当になんでも釣れるだろう!」と言ってくれたのだ。

拾ってくれていたのはおじいちゃんだった!

「本当にありがとうございます!」と頭を下げて釣り竿を返そうとすると、おじいちゃんは私にこう告げた。 「もう、俺は釣りに行くことはないから、これはあげるよ。いつも家の前に引っかかってたあんたんちの洗濯ものくらいしか引っかけてなかったから、惜しい気持ちもないし!」  そう、このおじいちゃんこそが、いつも1階のベランダの前に落ちていた洗濯ものを拾っては届けてくれていた張本人だったのだ。  途端に申し訳なくなって、「本当に申し訳ありません……。いつもいつも……」と深々と頭を下げると、おじいちゃんは豪快に笑って、「男の子は元気な方がいいの!」と息子にニヤリと笑ってくれた。  思わず泣きそうになる私に、おじいちゃんは「投げなくなったら、返してくれたらいいから!」と声をかけてきたのだ。「もちろん、返します」と私が言うと、「息子くんの投げる癖がなくなるのと俺が死ぬの、どっちが先かわからないけどな!」と言って、いそいそと部屋に戻ってしまった。  おじいちゃんなりの照れ隠しなのだろう。  それから、この釣り竿の出番は悲しいかな、まだ訪れてはいない。この釣竿を返す日も、そう遠くないのかもしれない。でもその前に一度、これで釣った魚をおじいちゃんにおすそ分けできたらいいなと思っている。 <TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【吉田可奈 プロフィール】 80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980
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