
王子疲れの王子たち
「王子疲れ」というのは、王子キャラを演じている人皆に起こりうる症状です。
もう40年以上も王子キャラでいる高見沢俊彦氏が、今年の6月にバラエティー番組で「王子キャラをやめたいときもある」「本当にしんどいから」と、王子疲れを告白して話題になりました。埼玉県蕨(わらび)出身の高沢氏を昔、南浦和の駅で見かけたことがありますが、庶民の中、異物的な王子オーラで目立っていました。
「蕨の王子」とか呼び名の範囲を狭めてみたら、少しは辛さが軽減されるかもしれません……。
及川光博氏も4月のテレビ番組で、王子キャラを20年続けたけれど疲れてやめた、と告白。王子たち、次々と脱落し、おじさまに転向しています。
王子疲れには様々な要因が考えられます。まず、マダムたちに精気を吸い取られる、という件。以前王子キャラの知人のイベントに行ったら、黄色いTシャツの下、黒いブラを透けさせたおばさまが「◯◯ちゃんがんばって~」とギラついた目で声をかけていました。客層がみんなこういう感じだったら、かなり消耗しそうです。
一般の庶民なのに、王子の品格に合わせて折り目正しい言動を常に心がけないとならないというのも疲れます。王子として体面を保ち続けるのは、現職の王子にもなかなかできることではありません。イギリスのヘンリー王子も、ダイアナ元妃が亡くなってから感情を抑え続けて爆発寸前になり、カウンセリングのお世話になったことを最近告白しています。イギリス王子としては感情を表に出せず、辛さや暴力衝動を抱えて生きていたそうです。
王子キャラは期間限定だったら、疲れもなく、気軽においしいところを享受できます。例えば江ノ島の「海の王子」のように……。やはり小室圭さんは、ブランディング力や戦略に長けていると改めて実感しました。王子というワードの持つポジティブなパワーで本物のお姫様を引き寄せることができました。
しかしやつれた王子疲れ男子にも萌えを感じます。ピチピチの王子にはない哀愁が漂っています。こうして王子キャラは骨と皮になるまで吸い取られ尽くすのでしょうか……。
<TEXT/辛酸なめ子>
【辛酸なめ子 プロフィール】
東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『
辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『
辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『
女子校育ち』(筑摩書房)など多数。