――井浦新さんも抑えた狂気がほとばしっていましたが、共演の感想は?
橋本:新さんも信之そのまんまで、ちょっと遠い存在でしたね。作中の南海子と信之の間にある“距離感”がそのまんま、新さんと私の間に存在しました。役作りのためだと思うのですが、最後に、新さんがご本人が出された写真集をメッセージ入りでプレゼントしてくださって、距離感が縮まったかな(笑)。それがとても嬉しかったですね。
それに、玄米入りのヘルシーなケータリングを差し入れしてくださって、新さんの意外に女子力高めな一面を見たような気がします(笑)。

『光』より
――本作を撮影するずっと以前に、大森監督のワークショップに通っていたとか。
橋本:大森監督のワークショップには8年前に行きました。そのころは「お芝居をもっと上手くなりたい」という気持ちが強くて、様々なワークショップに顔を出していたんです。そのなかでも大森監督のワークショップは別格。監督が求めるのはものすごくハードルが高くて……でも、そこには愛があるんですよね。大森監督の課題を超えるのが楽しくて、監督のワークショップへ何度も通いました。
実は、大森監督は、私が芸能界に染まっていなかったら南海子を演じてほしい、と仰ったんですよ(笑)。大森監督って、ワークショップのときの細かい指導と違い、本番中は「こうしろ、ああしろ」ってまったく仰らない。とはいえ、監督の何気ない一言のおかげで演技がぐっと活きたこともありました。

――アドリブもあったのですか?
橋本:信之が南海子に暴力をふるって部屋をめちゃくちゃにするシーンがあるじゃないですか? あのシーンは、アドリブだったんです。びっくりしました(笑)!

『光』より
――井浦新さんや瑛太さんといった大森監督の常連俳優のなかで、こういった重要な役柄を演じることにプレッシャーはありましたか?
橋本:「この役をきちんと演じられるのか?」と最初は不安に襲われましたが、撮影前に不安をどうしても消したかった。そこで、色々な団地を訪れて、団地の空気感というのを感じたり、椿役の早坂ひららちゃんと遊園地に遊びに行ったりして、南海子の土台を撮影前に作り上げました。南海子の心を理解するために役作りには時間をかけたと思います。
――マルチに活躍なさっている橋本さんですが、仕事での壁はどのように乗り越えていますか?
橋本:とにかく準備をします。なにかを読んだり、観たり、誰かの話を聞いたり、自分でできることを目一杯します。そうすれば、乗り越えられなくても頑張った自分に満足できるから。

――33歳になられた橋本さんですが、30代になって仕事に対する考え方に変化はありましたか?
橋本:仕事がずっと来なかった時代は、実は辛かったんですよ。何度も辞めようかなと思ったことも。あの時代はとにかく前向きになれるものをなんでもやってみました。バイトでもなんでも、自分の環境と違うところに身を置いてみる。新しいことを始めると、新しい人と出会う。すると自分の視野が広がり、毎日がとても楽しくなったんですね。
だからこそ、先が見えなくてもこの仕事を続けてこられた……。そして、その経験がいま、全部活きているんです。人生において無駄ってひとつもないんだなと心から思います。
そうしたら、毎日がとても楽しくなったんですね。だからこそ、先が見えなくてもこの仕事を続けてこられた……。そして、その経験がいま、全部活きているんです。人生において無駄ってひとつもないんだなと心から思います。

――最後に、女子SPA!読者に『光』の見所を教えてください。
橋本:日常生活をおくる上で、誰もが誰かを無意識的に傷つけているような気がします。この作品に見る人間の本能的な部分やエネルギーに注目してほしいです。また、女性のなかには結婚、出産、仕事など人生の岐路に立っている方もいるかもしれない。そんな方には、ぜひ、南海子という女性が選んだ人生を見て何かを感じてもらえたらいいですね。
映画『光』、11月25日(土)より新宿武蔵野館、有楽町スバル座ほか全国ロードショー。
配給:ファントム・フィルム
(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会
<TEXT/此花さくや PHOTO/林紘輝>
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ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):
@sakuya_kono