そう、乳がん患者も女子は女子。同じ病気を持つ者同士が集まる患者会に参加した松さんが目撃したのは、壮絶なマウンティング合戦でした。
「若年性、若年性って、そんなに自分は若いって言いたいの?」
「ステージ0とか1なんて、がんのうちに入らないわね」
「抗がん剤をやらなかった人は本当のがんの苦しさを理解できない、“がん患者”と言えないわ」
「私の方が再発率が高いんだけど」
「いいえ、私の方が生存率が低いのよ!」
がんのステージ、治療の内容などなど……、本人にとっては深刻なのでしょうが、はたで聞いている分にはただの
「劣等感プロレス」が行われていたのだそう。
「その一方で、『命があればそれでいいでしょう』『いろいろ望むのはワガママだ』という同調圧力を感じることもありました。生きる目標なんてそれこそ人それぞれなのに、
なぜ同じ病気になったとたんに人生観まで同じだと決めつけるんでしょう?
「治療をきっかけに、食材を極端に制限したり、占いやスピリチュアルなものへ傾倒する人もいました。民間療法など、自身の体のために行っていることならそれでいいと思いますが、患者同士でその価値観を押し付けてしまうのは考えもの。『よかれと思って』ということが本当に人のためになっていることってあまりないと思います」

不毛なマウンティングを繰り広げる患者たちを目にし、違和感を覚えた松さん。一方で、世間から「けなげにがんばっているいい人」
「聖人のよう」と下駄を履かせられがちな患者の立場にも違和感を覚えたといいます。
「治療中、上司に『病気をきっかけにカウンセラーになる人たちもいる。そういう道もあることだし……』と言われたことがありました。珍しい病気にかかったら『社会奉仕するべき』『患者支援するべき』という極端な考えの方もけっこういるんですよね」