治療費のためにと、職場でもがんであることをカミングアウトし、働き続けた松さん。
「治療費のために働かなければならない、やらせてください、と食い下がって職場の椅子を死守しました。仕事がハードな分、集中するとがんの恐怖を忘れて頭が真っ白になる時間が生まれ、がんに囚われないでいられました。そして、頑張った分『ありがとう』と労われる上に、かけた労力と時間はお金で返ってくるんです」

松さんは著書の前書きでも、
「仕事をやめ、がんに向き合うだけの生活をしていたとしたら、お金の不安や自己承認の満たされなさで、きっとくじけてしまっていた」と振り返っています。
不妊治療に専念するために仕事をやめ専業主婦になった女性が、自分で自分を追い込んでしまうのと同じ仕組みでしょうか。先の見えない治療に挑む患者さんにとって「自己承認欲求が満たされる」ことの価値はとても大きいと松さんは言います。
最後に、松さんは自らが経験した、女子がキラキラと過ごしがちな時期に彼女を襲った一連の出来事を振り返り、誰にでも起こりうるアクシデントだったと指摘します。
「この本のタイトルに“女子”を入れたのは
『すべての“女子”に可能性があること』として受け止めてほしいから。この本は思いがけないアクシデントに襲われたときのマニュアルでもハウツーでもなく、正解がない闘病を実際に経験した数人の男女の奮闘記録です。
人生は思っているほど長くないし、平気で過去の自分を裏切ります。思いがけない病気や出来事に立ち行かなさを感じているすべての“女子”、そしてその“女子”を支えたいと感じている周囲の方たちに読んでほしいです」
ちなみに、本書には松さんが、いろいろなタイプの若年性乳がんサバイバーたちへの取材によって聞けたさまざまな「治療のその後」が収められています。
自らの闘病をドキュメンタリー番組として公開した女性テレビ記者や、妊娠中にがんが発覚するも出産したいという意志を貫いた妻の忘れ形見を育てるシングルファザー(当時)、がん・セックスレス・夫の浮気という三重苦を跳ねのけるために不倫にハマった人妻――いずれもいわゆる「お涙頂戴」のがん闘病記では目にすることのない、生き生きとした若年性乳がんサバイバーの生きざまが描かれています。
病気ではなくても、なんとなく毎日がツラいとボヤく“普通の”女子たちにとっても、うつうつとした日常を打破するきっかけになるかもしれない一冊かもしれません。
<TEXT/富澤比奈>
【松さや香 プロフィール】
1977年東京生まれ。29歳のとき、若年性乳がんに罹患。治療中に編集者、国際線客室乗務員を経験し、現在寛解。著書に、『彼女失格~恋してるだとかガンだとか~』(幻冬舎刊)、『
女子と乳がん』(扶桑社刊)がある。