深夜の山中に置き去り?英語の通じないトルコで、不幸の三段重ね
その後、そのまま体調を崩し、ホテルで寝込んでいたんです。そうしたらノックもせずに男性スタッフが入ってきて「大丈夫か」と聞いてきました。女の部屋に入るのにノックくらいしろよと思いましたが、彼は和久井の手を握ってこんな風に言うんです。
「君はひとりで海外にいて、家族も側にいないのに、体を壊したら、さぞかし淋しいだろう。僕のことは家族だと思っていいからね。下に朝食を用意したから、大丈夫なら降りておいで」
心が弱っている和久井はうれしさに涙しました。
ヨロヨロとシャワーを浴びて階下のレストランに行ったんです。
……誰もいねえ。
朝食どころか、誰もいねえ。
トルコ人って人なつっこくて、5分喋れば友達、10分喋れば家族だと言い出すんですが、3歩あるけばすべて忘れてしまいます。普段なら笑い話ですが、弱ってるときの期待はずれは心に刺さりますね。
その後も体調がグズグズと悪いまま今度はおなかを壊して、いつトイレが必要なのかもわからないスリリングな状態になりました。
そんなときに次のホテルに移動しようとしたのですが、なんとGoogleマップの場所と本当にホテルの場所が違うんです。ホテルに電話をしましたが、スタッフが誰も英語ができない。片言のトルコ語で会話しようとしたのですが、
「予約? いつから?」
「いや、予約はもうしてる、場所がわからない」
「ひとり? シングルでいいの?」
「だーかーらー!!!」
という具合でお話になりません。
いつでも明るいトルコ人ですが、こちらがどんなに必死になっていても、
「タマム♪」(トルコ語で問題ないとかOKの意)
とか軽く親指立てて流してきます。そのたびに、
「タマムなのはお前だけじゃーっ!」
と叫びそうになりました。
で、早くホテルの部屋に行きたいのに、場所すらわからず、そして場所がわからないことすら相手に伝えられず、ユルいおなかはいつ漏らすかわからない状態で、心身共に疲れ切った和久井は、とうとうカフェの席で大泣きしてしまったんです。
うわあぁぁぁーーーん!!
みたいな。
アラフォーのいい歳した大人が。
さすがにびっくりしたトルコ人たちが、
「外国人が泣いてる」
「外国人が泣いている」
と集まってきて、
「誰か、英語ができる人はいるか!」
「私、私わかるわ!」
「どうした、タマムだから言ってみろ」
「私は英語がわかるわ、どうしたの?」
と和久井を取り囲み始めました。
「ホ、ホテルの場所がわからなくて……、え、英語が通じないし」
などとしゃくり上げながら説明をすると、周囲の人たちがホテルに電話をして、スタッフに迎えに来てもらえるように手配してくれました。
……なんだかものすごく……ものすごーく、恥ずかしかったです。
和久井は迎えに来てくれたスタッフのお姉さんに背中をさすられながらホテルに向かいました。
片言のトルコ語を喋っていると、自分が子どもになったような気がしてましたが、このときばかりは心身共に幼児になった気持ちでした。
まあ、今となってはいい思い出ですけど。
―シリーズ 旅行のヒサンな話 vol.15―
<TEXT/和久井香菜子 イラスト/やましたともこ>
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和久井香菜子
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表
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