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iPhone XにMac…AppleのCMが超絶かっこいい。あの曲はなに?

 選曲が抜群にいいAppleのCM。6月からオンエアされている「Behind the Mac」も素晴らしい出来栄えです。今回の楽曲は、双極性障害を抱えるアメリカのシンガーソングライター、ダニエル・ジョンストン(57 ※1)の「The Story Of An Artist」。デモテープみたいにラフなサウンドから聞こえてくるピアノの弾き語りと、マックブックに向かって作業をする人たちの眼差しが印象的なCMです。



ダニエル・ジョンストン

画家としても知られるダニエル・ジョンストン。『悪魔とダニエル・ジョンストン』(2006年)というドキュメンタリー映画にもなった

iPhone X、Apple Payの選曲も絶品


 AppleのCMで使われた音楽はいつも話題になりますが、特にここ最近のシリーズは強く印象に残りました。iPhone XのAnimojiで流れたBig Boi(43 ※2)の「All Night」や、Apple Payで流れたVULFPECK(ヴルフペック ※3)というバンドの「Back Pocket」も絶品。





「All Night」のコロコロと転がるピアノと表情豊かなAnimojiの楽しさ。

 スマートな決済と買い物のウキウキ感を「Back Pocket」の軽快なファンクが盛り上げる。“この新機能がすごいですよ”とか“お得なサービスですよ”なんて言わなくても、記憶に残りますよね。





 安易な売り文句やメッセージに逃げないことでAppleブランドのイメージが保たれる。それを可能にしているのが、良質な音楽なのですね。

なぜAppleのCMはカッコいいのか


 では、AppleのCMで音楽が果たす役割とは一体何なのでしょう? 宣伝文句を強調するのでもなければ、ただのタイアップやBGMなのでもない。もちろん一発ギャグ的なインパクトのために安っぽく消費されてしまう音楽でもありません。NTTドコモのCMで高畑充希(26)が「紅」を熱唱したところで、面白いのはその場だけですよね。皮肉なことに、これもiPhone XのAnimojiのCMなのですが……。

 そう考えると、Appleは足し算ではなく、引き算として音楽を使っているのではないでしょうか。視聴者に想像させたり考えさせたりするための行間を与える役割ですね。

 たとえば「The Story Of An Artist」のアナログな質感と、マックブックのコントラスト。様々なクリエイターが作業に没頭する映像に、<なんでひとりっきりでずっと同じことしてんの?>という歌詞。思わず感情移入するユーザーもいるかもしれません。

 他にも、iPad ProのCMで流れたアラバマ・シェイクス(※4)の「Sound & Color」は、宇宙空間の雄大な詩情をこれでもかと描きだします。映像の色彩と音楽の力は、iPadという商品ではなく、それを通じて体感できる美しさをアピールする。

 そのようにモノと人とが関わり合うことで消費行動に物語が生まれる。音楽がその橋渡しをしているというわけです。





 そもそも、なぜ消費者はモノを買いたいと思うのでしょうか? ファッションデザイナーのアドリアーノ・ゴールドシュミット(74)は、こう話していました。

「私達が市場に商品を出すときには、物語もいっしょに作らなければなりません。このストーリーがなければ、人はわざわざ買い物をしようなどと思わないのです」
(英「OBSERVER」紙のウェブサイト、2018.4.2)

 この消費者心理をくすぐり続けるAppleのCM。今回はダニエル・ジョンストンという絶妙なチョイスに、またしてもやられてしまいました。

※1 ダニエル・ジョンストン:1961年、カリフォルニア州サクラメント生まれ。シンガー・ソングライター、アウトサイダー・アーティスト(精神障害を持つアーティスト)として知られる

※2 Big Boi(ビッグ・ボーイ):1975年、ジョージア州アトランタ出身。ヒップホップデュオ「アウトキャスト」の1人で、グラミー賞の常連

※3 VULFPECK(ヴルフペック):2011年にロサンゼルスで結成された、4人組のミニマル・ファンク・バンド。日本でも人気急上昇中

※4 アラバマ・シェイクス:2009年にアラバマ州アセンズで結成されたロックバンド。アップルCMに使われた曲を収録したセカンド・アルバム『Sound & Color』は全米チャート1位となった

<文/音楽批評・石黒隆之>
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