人間は「普通ではない環境」であっても、それに慣れていくものなのだろうか。ミチコさんも今はごく普通に日常生活を送っている。
「子どもたちに親の不仲を感じ取られたくないというのもありますが、
夫自身、不倫をしていること以外はごく普通なんですよね。平日、特に遅くなるわけでもないし、家では子どもたちとよく話してる。家事もやるし、前とほとんと変わらない。以前からセックスレスですし、それも変化はありません」
月に2回ほど、夫は土曜日にふらりと出ていく。彼女に会っているのだろう。それを止める気力もミチコさんにはない。
「A子の夫に聞くと、やはり土曜日にときどきいなくなる、と。A子は私と同い年なんですが、結婚が早かったので、ひとり娘はもう成人して家を出ているんです
。裏切られていても、A子の夫は妻をとても愛しているんですよね。だから離婚する気はないみたいです」
ミチコさんは一時期
、復讐のようにA子の夫と関係を結んでやろうと思ったことがあるという。だが、彼に「僕にはできない」と拒否された。
「まあね、私も別に彼を好きで誘ったわけではなく、腹いせで1回くらいしてやろうかと思っただけ。でも拒否されたことで、彼の妻への愛情を感じてしまった
。うちの夫もA子の夫もA子を愛している。じゃあ、私は? そう思うとすごく虚しい気持ちになります」
今も2組の夫婦は数ヶ月に1度会っている。別れて戻ってきてほしいとA子の夫はそのたびに言うが、ふたりは「別れられない」と言い続ける。今や、この関係は膠着状態だ。誰も新たな展開を望んでいないようにさえ見える。
「私は、子どもたちが成人するまでは、放っておくしかないのかなという気分になりつつあります。
他の女性を心から愛している男性を夫にしている女の気持ち、複雑ですよ。じゃあ私が夫を本気で愛しているのかと言われると、そこもまたむずかしいんですが……」
ただ、夫を心から軽蔑したり憎んだりはできないのもミチコさんの本心だ。自分がどうしたいのかもはっきりしないのだという。
「考えたり悩んだりした時期もありましたが、疲れきってしまうだけ。どうしたらいいかわからない状態ですね」
結論が出ないまま、不安定な状態が固定化していく。
<文/亀山早苗>
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