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Vol.12-1 「一晩で5回」妊活妻に地獄のノルマを課せられた夫の告白

「子どもができないのはあなたのせい」

 セックスに異常なこだわりを見せる真希さん。ただ、これも子作りのためならばまだ理解できる。しかし、必ずしもそうではないのでは? と森岡さんは疑い出す。 「あんまり辛いから、友達の同世代女性に相談したんです。すると妊活経験のある彼女は言いました。本当に子どもを作りたいなら、排卵日の3日前から前日あたりに集中してセックスするものだし、その期間に備えて男のほうを休ませるべき。もちろん定期的にセックスはしたほうがベターだけど、毎日の必要はない。奥さん、本気で子どもを作る気あるのかな? ちょっとおかしいと思う、と」  おかしいと感じても、真希さんの前でそれは通じない。 ※写真はイメージです「頑張れば頑張るほどセックスに苦手意識が生じてしまって、頻度はどんどん落ちていきました。どうしようもないんです。でも真希は容赦なくて、『どうせ今日もやらないんでしょ!』と罵声を飛ばしてくる。せめてもの抵抗として、僕も頑張ってるみたいなことを言い返しても、一歩も譲らない。そのまま冷たい空気が翌日まで続いて、真希がウンザリしながら『結局わたしが歩み寄るのね』みたいな言い方をしてくる。その繰り返しでした」  平日も休日も、朝起きてから眠るまで、真希さんの罵声は続いた。真希さんは家事をほとんどやらないので、日中はとにかく時間がある。そのヒマをすべて森岡さんへのダメ出しエネルギーに費やしているようだった。 「『子どもができないのは賢太郎のせい』って、僕の耳元でずっと言い続けるんですよ。反論したいんですが、あまりにも言われ続けると、だんだん反論する気力もなくなってくる。マウントポジションでボコボコに殴られている気分でした。しかも怖いことに、それが続くと最終的には『そうか、やっぱり自分が悪いのかな……』という気になってきちゃうんです」

それでも離婚しなかった。あの出来事が起こるまでは…

 そこまで辛い日々が続いていたのに、なぜ森岡さんは離婚を考えなかったのだろうか。 「ちょっと厳しい状況だなとは思いながらも、いつかこうならない日が来ると思い込んでいたんです。そのためには早く子どもを作らなければ……と」  もうひとつ、森岡さんには離婚を阻む精神的な枷(かせ)があった。親だ。 「僕がまだ小さい頃、霞が関の官僚だった親父と専業主婦だった母親は、僕に『絶対に離婚なんてしちゃだめだ』と言い含めていたんです。どういうシチュエーションで言われたかは忘れましたが、とにかくその言葉がずっと僕の胸に刻まれていました」 ※写真はイメージです ところが、あとになって森岡さんが離婚することを両親に伝えたところ、信じられない言葉が返ってきたそうだ。 「『なんでもっと早く離婚しなかったんだ』ですよ。絶対に離婚するなって言ったじゃないか、話が違うと抗議しましたが、親もそんなこと言ってないと譲らなくて」  しかも、最初からふたりの結婚には反対だったとまで聞かされた。 「真希の第一印象は最悪だったそうです。たとえば食器を片付ける時、真希は一切動かずに僕が率先して全部やっていたりとか、食事のマナーとか。僕は気にも留めていませんでしたが、親から見るとどういう教育を受けたんだと思うレベルだったと。僕らが帰ったあと、父は母に言ったそうです。『賢太郎がどれだけ我慢できるか、だな』って。それを離婚後に後出しジャンケンで言われても……ねえ」  なぜご両親は、結婚前にそれを伝えなかったのか。 「母はこう言いました。あなたはすごい重圧のなかで仕事をしていて、私やお父さんには思いもつかないことがいっぱいあるでしょう。だから、私たちが真希さんをおかしいと思ったとしても、あなたにとって真希さんが精神的な拠りどころだというなら、応援するしかなかったのよ」  もしかしたら防げたかもしれない災厄だったのだ。言葉もない。  そして、専業主婦になった真希さんの心が少しずつ壊れていく。 ※続く#2は、6月6日に配信予定。 ※本連載が2019年11月に角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
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