次に、みんな踊ってしまうという点を考えてみましょう。一般にダンス音楽というと、三浦大知(31)あたりの名前が浮かんできますよね。ただ、彼の曲に合わせて踊れる子は、もともとダンスが得意だったり、運動神経がよかったりと、限られてくるはず。
そこで「パプリカ」を聴くと、かなりゆったりとしたテンポだと気づきます。でも、このスローなスピードだからこそ、多くの子供たちが引け目なく参加できるのではないでしょうか。スポーツにも言えることですが、いきなりガチガチの実力主義に圧倒されて、その種目の楽しさを知る前に挫折してしまうなんて話をよく聞きます。ムダに高いハードル設定によって、本来広げるべき門戸が狭まっているのですね。
「パプリカ」のダンスは、この問題を見事にクリアしています。スピードをゆるめつつも、ほんの少しだけシャッフル(跳ねた)のリズムで味付けすることで、踊りが苦手な子でも、もっさりせず、スタイリッシュにキマる。いまの子供たちにとっては、ラジオ体操みたいな存在になりつつあるのではないでしょうか。
米津玄師セルフカバーは和テイストで盆踊りの血が騒ぎだす

「ロッキング・オン・ジャパン 2019年 07 月号」 ロッキングオン
さて、それらをふまえたうえで、NHK「みんなのうた」で8、9月放送されている米津玄師バージョンの「パプリカ」を聴くと、さらに興味深い視点が浮かんできました。
オリジナルに比べて和テイストなアレンジによって、和音の間を自由に行き来する歌メロに、小唄のようなしなやかさがあることに気づきました。その歌を支えるリズムにも、“えんやとっと”的な、盆踊りの血が騒ぎだす、摺(す)り足の快感が刻まれていました。
ただ流行っているから、子供たちがハマるわけではない。非常に説得力のある、作者ならではのセルフカバーだと、感心してしまいました。
というわけで、来年にかけて耳にする機会の増えそうな「パプリカ」。夏休みに入り、子供たちの踊りにもますます磨きがかかるのでしょうね。
<文/音楽批評・石黒隆之>
⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4