二度目に会ったとき、アヤカさんは酔って歩けないフリをして彼をホテルに誘い込んだ。
「実は高校時代、私たち、セックスは未遂だったんですよ。私が痛がったから彼は途中でやめたんです。そのときのことがあるから、私はなんとか彼ときちんと抱き合いたかった」
結ばれたとき、彼女は泣いた。実は彼のことが大好きで、卒業してから10年以上たっても、心の中で彼への思いは風化していないと気づいたからだ。泣きながら彼にそう訴えると、彼はおろおろしながら「実はオレも……」と彼女への思いを打ち明けた。
「だけど家庭がある、妻子に罪はない、オレは動けないって。でも私も彼も気持ちが盛り上がりすぎて、このまま不倫関係を密かに続けるなんて無理だった。1ヶ月後、示し合わせて駆け落ちしたんです」
彼女は1週間の休みを申請していた。そのまま帰ってこなくても、仕事はわかるようにしてあった。
「彼のほうは用意周到にはしていなかったようです。飛行機で沖縄に飛んだのですが、現地で彼が携帯をオンにしたら、ひっきりなしに連絡がきて。彼、あわててオフにしていました。場所もわかっちゃうし」
彼と彼女の接点は誰も知らないはず。そう思って、背徳感も抱きながらも、1日中抱き合って過ごした。そして4日目に外に出て、ふたりとも仕事を決めた。
「夫婦としてここでがんばっていこうと思ったんです。新しい生活をふたりだけで築いていける。そう思った。
だけどホテルに戻ると、彼が急に泣き出して。子どもからメッセージが来たらしい。まあ、奥さんがさせたんでしょうけどね。『オヤジがいない生活を、自分も子どもにさせるのかと思ったらたまらなくなった』と。彼を殺して私も死のう。そう思ったけど、結局、できなかった」
駆け落ちは4日で終わった。5日目にふたりはそれぞれ自分のいるべき場所に戻った。彼とはそれきりだ。
「あの衝動は何だったんだろうと今でも思うことがあります。私自身、帰ってきたとたん、憑(つ)きものが落ちたように彼には何の思いも残らなかった。互いを貪(むさぼ)るように求め合った3日間ですべて尽きたのかもしれない」
ただ、そのまますんなり結婚はできなかった。3日間の恋を得たからこそ、婚約者の彼との関係が色褪(あ)せて見えたのだという。
「婚約者には謝り倒して、婚約を破棄しました。それきり恋愛というものができなくなった。興味を失ったともいえますね。これからどうなるかわかりませんが」
強い衝動によって行動し、3日間ですべてが満たされてしまったのかもしれない。安定より衝動に身を任せたアヤカさん、再びそんなことが起こる可能性もある。
<文/亀山早苗>
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