紅白の視聴率30%台より深刻、あちこちから不満続出の理由
2019年大晦日の紅白歌合戦の視聴率が、2日に発表されました。第1部が34.7%、第2部が37.3%で、前後半の2部制になった1989年以降でのワーストを更新してしまいました。とはいえ、BSやCSをはじめ、NetflixやYouTubeといったネット動画のコンテンツが大量にあふれるなかでのこの数字ですから、お化け番組なのは間違いないのですが。
しかし、放送後に各メディアから配信された記事を見ると、今回はいくらか様子が違うのに気づきます。構成や演出への苦言や批判、そして音楽番組としての本質をまじめに問いただす主旨がほとんどだったからです。
たとえば、1月4日のスポーツ報知等は、フリーアナウンサーの徳光和夫氏(78)が自身のラジオ番組で「紅白は原点を失っている」と語ったと報じていましたし、同様に1月3日に配信された『女性自身』の記事でも、歌をメインにすえて原点回帰せよと論じていました。
また、1月3日配信の日刊スポーツには、緊張感に欠けたリハーサルがワースト視聴率につながったのではないかという、芸能記者のコラムが掲載されていました。いつもは必ずリハーサルに出ていた歌手ですら欠席したんだそうです。
このような論調が出てくる背景には、視聴者からの“いい加減マジメにやってくれ”というあきらめに近い嘆きがあったように思います。いつもなら三山ひろしを楽しみにしている筆者の両親も、昨年は最初から紅白を見ようとはしませんでした。どうやら近年のわちゃわちゃした演出に嫌気がさしていたようなのです。落ち着いて見られない、聴けない。もしかすると、これが数字以上に紅白に不満を抱く原因なのかもしれません。
というわけで、ここからは紅白が落ち着きを失った要因をいくつか考えてみましょう。
ここ数年の最も良くない傾向です。8組がこの形式でのパフォーマンスでした。秒刻みのスケジュール。コントあり、VTRあり、ゲストありとただでさえせわしない中、歌までも切り刻んでしまっては、血圧も上がりっぱなしです。
少ない持ち時間の中に、とにかく詰め込んでしまえと、機械的にヒット曲を並べていく。音楽を聴かせるというより、商品の売り込みみたいな強引さといえばよいでしょうか。客=視聴者が引いてしまうのも無理はないわけです。
これは紅白というより、日本の商業音楽全般の問題と言えるかもしれません。おおまかにわければ3パターンで済んでしまうのではないでしょうか。ラブソング、がんばれ、家族に感謝。歌い手と曲が変わっているはずなのに、ずーっと同じセミナーを聞かされている気がしてくるのですね。これも中だるみする要因でしょう。
きわめつけは、Superflyの「フレア」。<ほら 笑うのよ>、<涙に負けるもんか>の鉄板フレーズに、がっつりメンタルが削られました。
なにをもって音楽番組がそれらしく見えるかといえば、やはり楽器を弾く人の姿です。昭和40年代の紅白は壮絶でした。割れんばかりのホーンセクション(管楽器隊)に、負けじと歌手が声を張り上げる姿には、まるで格闘技のような緊張感が漂っていました。「原点に帰れ」との提言には、こうしたプロフェッショナルの矜持にふさわしい水準のパフォーマンスを再び、との意味合いも込められていたのではないでしょうか。
バンドやユニットで出場するグループも、彼ら単体の演奏ならYouTubeで事足りるのですから、大晦日ぐらいは玄人集団に混じったときの化学反応を楽しみにしたいものです。
紅組、白組、それぞれの出場メンバーのあとに発表される“特別枠”。07年の小椋佳(75)が最初だったそうですが、いかんせん近年は乱発しすぎです。
今回だって企画も含めると、ディズニーメドレー、YOSHIKISS、AI美空ひばり、ビートたけし、竹内まりや、松任谷由実と、6つもありました。ここに、NHKホール以外で歌った人も加えると、すでに“特別枠”がインフレを起こしている現状が浮き彫りになります。
“特別枠”に特別感を取り戻すため、緊縮政策に転じるべきだと考えます。
というわけで、残念ながら令和初の紅白は、好スタートとはなりませんでした。紅白という組み分けや対戦形式など、時代にそぐわなくなっている側面もあるでしょう。
それでも、音楽で祝う年越しはめでたいものです。これからは、そんな晴れやかな気持ちが音から伝わる番組作りを期待しましょう。
<文/音楽批評・石黒隆之>
各所から“バラエティ番組化”に不満が
①メドレーが多すぎる
②歌のテーマが少なすぎる
③ずっとハウスバンド(番組付きのバックバンド)が演奏してください
④“特別な枠”が多すぎる
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4