北村匠海、ドラマとは別の顔を見せる「歌手」としての色気
この人はズルい。反則だ。あんな危うくキュートなルックスで、いい具合に荒っぽく歌われたら、たいていの男は敵(かな)いません。
8月14日公開の映画『思い、思われ、ふり、ふられ』で、浜辺美波(20)との“キミスイ”=『君の膵臓をたべたい』コンビ復活が話題を呼んだ北村匠海(22)。9月15日スタートのドラマ『おカネの切れ目が恋の始まり』(TBS)に出演し、そのスピンオフ『恋の切れ目がおカネの始まり』(Paravi)では主演を務めるなど大活躍ですが、実は歌手としてもきらめく才能の持ち主なのです。
あいみょん(25)が作詞・作曲を担当した「猫」の一発録り動画が4650万回再生を記録し、話題のダンスロックバンド・DISH//。新曲「僕らが強く。」も、“ボーカリスト・北村匠海”の魅力を存分に伝える一曲になっています。
アコースティックな響きの王道バラードだった「猫」に比べて、骨太なロックサウンドが印象的。面白いのは、リズムが細かく跳ねた8分の6拍子なところ。縦のノリと横のゆらぎがミックスして、うねるように曲が展開していきます。
そこで際立つのが、北村匠海のリズム感の良さです。言葉とリズムのアクセントを意識しているので、ギターのリフレインがより効果的に聞こえるのですね。やみくもにメッセージを伝えるのではなく、ボーカルが楽器隊の一員となって、演奏を推進させるパワーを持っている。
その点で、ただ俳優が歌うのとは違う味わいがあるわけです。バンドでやる意味が伝わる歌なのですね。
このように安定したリズム感の土台があるおかげで、言葉がすんなりと入ってくるのも注目すべき点でしょう。「猫」でも感じたことですが、とにかく滑舌がいい。それも、ロックっぽいラフさを壊さない程度の、絶妙な歯切れの良さ。フレーズを歌い出すタイミングが思い切りよく、ケレン味がない。かといって、まじめ一本槍でもない。
男性にしてはかなりの高音が出てくるサビでも、ふらつきません。芝居がかって大味になりがちなところで、逆に引きの色気が伝わってくる。ミュージシャンの顔がなせる業なのでしょう。
そんな北村匠海の底力を引き出したソングライターが、若手ロックバンド・マカロニえんぴつのはっとり(27)。昨年、シングル「青春と一瞬」が日本マクドナルドのCMに起用され、注目を集めています。
洗足学園音楽大学内で結成され、音楽的な影響は、奥田民生(55)率いるユニコーンと、アメリカのロックバンド・Weezerなど。「僕らが強く。」を聴くと、日本語の音節を活かした歌メロには民生スピリッツが息づいているし、ダイナミックでありながら切ないハーモニーには、Weezerのポップセンスがうかがえます。
けれども、それがお勉強として取り入れたものではなく、はっとりの血となり肉となっているところに、器の大きさを感じるのです。部分部分で意図的に引用するのではなく、すべてが一息の歌の中にミックスされた形で表現されている。
「僕らが強く。」を初めて聴いたとき、何も気にせずただいい曲だなと思ったのですが、そういう詠み人知らずの風情をたたえているところが、得がたい美点なのではないでしょうか。
さて、あいみょん、はっとりと、気鋭の作家とコラボしている北村匠海。男の筆者から見ても、本当にカッコいいなぁ…。欠点はないんでしょうか。九九の六の段だけ言えないとか。
ともあれ、次はどんな表情を見せてくれるのでしょうか。期待は高まるばかりです。
<文/音楽批評・石黒隆之>
新曲「僕らが強く。」で際立つ歌手としての北村匠海
作詞作曲の「マカロニえんぴつ」はっとりとは
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4



