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顔だけいい「顔だけ男」を呪った話【こだま連載】

こだまの「誰も知らない思い出」 その5】 誰も知らない思い出――――――――――――――――――  自身の“愛と堕落の半生”を、ユーモアを交えて綴った『夫のちんぽが入らない』(1月18日発売)が早くも話題の主婦こだま。  彼女は閉鎖的な集落に生まれ、昔から人付き合いが苦手で友人もいない。赤面症がひどく、人とうまく話せなかったこだまはその日の出来事をノートに書いて満足するようになった。今はその延長でブログを続けている。  家族、同級生、教員時代の教え子、相部屋の患者。当連載は、こだまが、うまくいかないことだらけの中で出会った、誰も知らない人たちについての記録である。 ――――――――――――――――――

呪詛の才能

 高校のとき、同じクラスに今田という男子がいた。顔だけは良かったので「顔だけ男」と呼ばれ、他校の女子からも人気があった。私は彼と何の接点もなかったけれど、隣の席になったのを機に話しかけられるようになった。  今田は手鏡で入念に髪を撫で付けながら私に訊いた。 「こだまさんちって農家でしょ?」 「違うけど、なんで?」 「いや絶対農家だと思う。そういう顔してるもん」 「違うけど」 「ねえほんとのこと言ってよ。農家でしょ? 俺は顔見ただけでその人が農家かどうか一発でわかるんだよ。こだまさんは農家顔なんだよ。これは絶対!」  神は今田に「良い顔面」と「農家を当てる能力」の二物を与えたらしい。
顔だけ男

何が何でも私を農家にしたい「顔だけ男」/イラスト:こだま

「でも、うちサラリーマンだよ」 「兼業農家ってこと?」  何が何でも農家にしたいようだ。 「俺は外したことないんだよ。こだまさんは100%農家だと思う」  農家ならなんだっていうのだ。農業を舐めるなよ。そう思い、以後今田に話しかけられるたびに「食いものに困って死ね」と念じるようになった。 「宿題やってきた?」 「やってきたけど(死ね)」 「見せて」 「いいけど(食いものに困って死ね)」 「教科書忘れたから見せて」 「いいけど(死ね! 食いものに困って死ね!)」  学校生活の大半をそう唱えて過ごした。高2の終わりに今田が女性絡みの不祥事を起こして退学したとき、自分には呪詛の才能があるに違いないと思った。農家的中率の高い今田、その今田を呪うことだけに秀でた私。実にどうでもいい能力だった。  大学生になった私は地元を離れ、一人暮らしを始めた。今田の存在も、自分が農家顔であることも、すっかり忘れて大学生活を謳歌していたある日、同じクラスだった女子から電話があった。 「今田君と一緒なんだけど、近くまで来てるから遊びに行っていい?」
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あんなに呪いをかけたのに、奴はまだしぶとく生きていた
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