アマゾンにヨドバシ…送料ゼロ競争で宅配現場がヒドいことに

 いまや送料ゼロが珍しくなくなった、ネット通販。しかし、小売り各社はさらなる差別化を図ろうと、新たなサービスを次々と展開。競争は加熱の一途をたどっています。

利用者には嬉しい「送料ゼロ」だけれど…



“神対応”と多くの称賛を集める、ヨドバシカメラの「エクスプレスメール便」。注文当日の6時間以内に商品が届くというのですから、驚きです。自社の配達員によるエクスプレスメール便の対象エリア外でも、宅配業者によって送料無料で「最短当日」に商品が届けられます。

 一方、アマゾンでは通常配送される全商品の送料無料化が実現して、早5年。「当日お急ぎ便」(514円)の拡充も着々と進んでいて、10月13日からは全国のファミリーマートで注文当日に受け取れるようになりました。

 オンラインショッピングを取り巻く環境は、ますますストレスフリーになっているように思えます。

宅配の現場 全く便利な世の中になったもんだ。そう思う反面、ふと頭をよぎるのが、「タダより高いものはない」というフレーズ。この過剰なまでのスピードを、“無料で”実現するサービスの裏では、必ずどこかに歪みが生じているはず。

仁義なき宅配』(横田増生 著)は、そうして見て見ぬフリをしてきた“送料無料の影”にスポットを当てた一冊。著者がドライバーに密着し、巨大仕分けセンターのアルバイトとして潜入して見えてきたのは、ユーザーにとって嬉しいサービスが充実するほどに、宅配業者の労働環境が過酷さを増すという実態でした。

仁義なき宅配

ドライバーはサービス残業が当たり前



 根本にあるのが、送料のダンピング。アマゾンなどの小売り各社が、複数の業者を競争させることで、運賃は適正価格からどんどん下がっていく。末端のドライバーや荷物の仕分け現場に、そのしわよせが来ているのですね。

 ドライバーにおいては、サービス残業が深刻だといいます。著者が取材をしたヤマト運輸のドライバーの賃金体系は、

<基本給と残業代、それに業務インセンティブといって、どれぐらい荷物を集荷配達したかによって払われる手当が三本柱となっており、給与全体の六〇~八〇%程度を占める。>
(第六章 宅配ドライバーの過労ブルース)のだそう。

 このインセンティブがサービス残業なしには実現されない仕組みになっているのが、問題の根深いところ。先ほどのドライバーは、こう語ります。

<「年間の労働時間が多すぎて、二月と三月にハンドルを握れないとしたら、基本給とその他の手当しか入ってこなくなります。残業代と業務インセンティブを手にすることはできず、給与の額は大幅に減少します。そのためドライバーの多くは、一年間を通しての損得を考え、残業時間のすべてを申告することより、サービス残業を甘受する土壌ができあがっているのです」>
(第六章 宅配ドライバーの過労ブルース)

 これは佐川急便でも慣例になってしまっているといいます。

ヨドバシカメラ_労働争議

ヨドバシカメラの配送を請け負う多摩流通では労働争議も…(2013年2月、大阪全労協のHPより http://www.osakazenrokyo.org/2013soukoudou.html)

仕分けバイトで、足指の爪が剥がれ落ちた



 加えて、荷物の仕分けをしている現場も、問題が山積。

 ヤマト運輸の「羽田クロノゲート」という巨大センターでは、二か月で契約が打ち切られる“日雇い”の労働者が、ロクに業務内容のレクチャーも受けないまま作業に当たっている。

 しかもその大半がベトナム人をはじめとする外国人だというのですから、品物が正確に届くことが奇跡のように思えてきます。

羽田クロノゲート

羽田クロノゲート、2015年度グッドデザイン賞受賞のニュースリリースより

 そんな中、著者が体験したクール便の仕分けは壮絶。10℃に保たれた室内で一日の仕事を終えると、まず目に見える形で体が悲鳴を上げる。

<毎日追い出し作業をするようになった私は、足を踏ん張るために両足の指にマメができた。さらにつづけていると、左足の小指の爪が内出血し、一ヵ月のアルバイトが終わるころには小指の爪全体が真っ黒になった。そしてその年の冬、小指の爪が全部剥がれた。>
(第七章 ヤマト「羽田クロノゲート」潜入記)

 ここまでの思いをしても、一日9000円にもならないのだそう。

 さらに、常態化した夜勤のせいか、潜入取材を終えてからも不眠に悩まされたというのですから、ダメージは計り知れません。

「安すぎ・便利すぎ」で犠牲になるもの



 送料無料でその日に届くという、かつてない社会インフラは、多くの人たちの肉体と精神を蝕む犠牲の上で、ギリギリ成り立っているといっても過言ではないでしょう。

 ゆえに、ヤマトで管理職をしていたという男性の言葉は、とても重たく響きます。

<「俺は、宅急便もメール便も使わない。現場の作業レベルが低いのは、自分の経験でよく知っている。(中略)だからどうしても届けたい物があったら、自分で車を運転して届けるようにしている」>
(第七章 ヤマト「羽田クロノゲート」潜入記)

 そのうえで、著者はもう一度消費者に対して、こう問題提起をして本書を締めくくっています。

<宅配便を使っている利用者が、労働に見合う運賃を支払っているのかを見分ける尺度がある。それは自分自身が、あるいは自分の子どもを宅配業界で働かせたいと思うかどうかである。(中略)人が二四時間働くことによってようやく宅配便が届くという仕組みの一部に、自分自身が、あるいは自らの子息がなりたい、と思うかという点から考えることである。>
(終章 宅配に“送料無料”はあり得ない)

 このようにネガティブな心持ちを覆い隠したところで享受される快適なサービスなど長続きするわけがありません。著者の言葉を借りれば、それは「砂上の楼閣」。このシステムが崩壊してから、“タダより高いものはなかった”と気づいても遅いのです。
 
<TEXT/比嘉静六>

仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン

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