そこへいくと小川さんと音楽との付き合いはそれよりもゆるい。だからこそそこで挙げられる数々の固有名詞が情報の伝達でなく日常の色彩や匂いとともに立ち上がってくる。言わば最初にそれらの音楽に触れたときの新鮮さが失われていないのです。その新鮮さが、音楽にそこまで通じていない人たちにとって優しい客観性を感じさせてくれるのかもしれません。
2012年6月15日の『アメウタ』と題されたエントリーで、小川さんは“雨の歌暫定トップ5”を以下の通り公開しています。
<5>『The rain song』 Led Zeppelin
<4>『Rain』 Priscilla Ahn
<3>『Why does it always rain on me』 Travis
<2>『Raindrops keep falling on my head』 B.J.Thomas
<1>『Have you ever seen the rain』 CCR
このトップ2に、個人的な思い入れを抑えて、ビッグネームでまとめあげるあたりがなんとも心憎い。世代的にはトラヴィスやプリシラ・アンを押したいところなのでしょうが、きちんとロック・ポップス史を踏まえたうえで、その中にご自分の趣味があることを認識されている。なにげない、ただ自分の好きな音楽を他人に披露するということの中にもきちんと常識の力が働いているように感じるのです。
●『Why does it always rain on me』 Travis(http://youtu.be/PXatLOWjr-k)
●『Rain』 Priscilla Ahn(http://youtu.be/MKfDwChOoHI)
そんな小川さんの「無料交換してくださればいいのに」という発言で思い出したのが、デヴィッド・ボウイの友人である情報通信会社の重役のこの言葉。
「人はこれからどんどん不便な暮らしを求めるようになるだろう。」
確かに何か脆弱性があるたびにパッチをあて、数年ごとに機種を買い替えさせられ、常にウイルスの脅威に対して備えを怠ってはいけない。ふと考えると、この状況の一体どこが便利なんだろう。ああめんどくせ。ネット上では軽く炎上してしまった彼女の失言ですが、案外共感した方も少なくないのではないでしょうか。
小川アナのブログでは2013年頃から文末の「今日の一曲」がなくなってしまい寂しい限りですが、また気が向いたら好きな音楽のことを書いていただきたいものです。
ちなみに先のボウイの友人の発言は『ヒストリー・オブ・ロックンロール』というドキュメンタリー作品において引用されたもので、制作年は1995年。ウインドウズ95に全世界が沸いた年でありました。
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>