美樹さんはいつも携帯を手放さず、母親から連絡があればすぐに駆けつけられるようにしています。何度か散歩に出た母親が倒れて助けたこともあるそうです。
「そばにいれて良かった」そう筆者の前では口に出すのですが、もちろん母親に伝えたことなどありません。
「仲良しべったり親子ではないですが、いざというときくらいは何かできればと思っています。『団らん』的なつながり以外でも、つながる方法があるのかなと最近、思うようになりました」
別々に住んでいたときの方が会う頻度は多かった、ふたり。同居することで逆に会えなくても、安心感は今のほうが断然に強いそうです。
「実は子どもたちが学校に行くときは、あえて我が家のドアには鍵をかけ、親世帯の玄関から出入りさせているんです」
という美樹さん。
母親が孫たちに「行ってらっしゃい」「今日は雨が降るから傘を持っていくといいよ」などと声をかけてくれるので、自然な形の交流が生まれているから、そうしているのだとか。
とはいえ高齢の両親。コロナに感染しては大変という思いから、子どもたちに1階に行くことを禁止した時期も。
ところが美樹さんの父親が猛反発したそうです。
「(もしコロナで)死ぬなら生きてるうちに、たくさん遊んでおきたい」
その言葉に、美樹さんは規制するのを辞めました。
だからといって、高齢の親が感染しまうようなことがあってはいけません。感染対策には、細心の注意を払いつつ接しています。
「母が倒れ『どうか生きて!』と願ったときの気持ちにまた戻るのは嫌ですからね」
同居する前よりも母親と会わなくなったという美樹さんですが、それ以上に大切なものを得たようです。
<文/夏花くまこ>