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「ハケンの品格」で輝いてる大泉洋。三谷幸喜の舞台ではジミな裏方役を…

三谷幸喜の舞台「大地」、土日はネット生配信

 大泉洋には、世の中の嫌なことを受け止めて正直にぼやくことで、見ている私たちにガス抜きさせてくれる力がある。その才が存分に発揮されているのは舞台「大地」(PARCO劇場)。三谷幸喜が台本を書き、演出している演劇で、コロナ禍で上演が危ぶまれたものの、初日を延期したうえ、感染対策で客席数を大幅に減らして上演している。 三谷幸喜「大地」(PARCO劇場) そのため、土日には生配信も行っているので、三谷幸喜の舞台はチケットがとれないと諦めている人も、そもそも地方在住だから見にいけないと嘆く人も、三谷作品を映画やドラマで見られるからそれ以上は望まないという控えめな人も、誰もが三谷幸喜の舞台(配信とはいえ)を見ることができる、めったにない機会が現在訪れている。
三谷幸喜「大地」(PARCO劇場)プレスリリースより

三谷幸喜「大地」(PARCO劇場)プレスリリースより

「大地」はとある共産主義国で反体制と目された俳優たちが施設に収容され強制労働させられている物語。何人かのグループに分けられて集団生活を送る俳優たち。  ひとつの部屋にベテラン舞台俳優(辻萬長)、演出家でもある俳優(相島一之)、大道芸人(浅野和之)、モノマネが得意な芸人(藤井隆)、女形俳優(竜星涼)、映画スター(山本耕史)、若い俳優(濱田龍臣)が共同生活していて、大泉洋が演じているのはそのなかのひとり、演劇の裏方・チャペック。  日頃、舞台では表に出ることのない彼がこの収容所では先頭に立って働いている。

スター・大泉洋が地味な裏方を演じる面白さ

 演劇人が描く演劇人の物語なのでひとつひとつのエピソードにリアリティーがある。すてきなところもあれば困ったところもあり、でもそれがあってこそ俳優。  三谷幸喜は俳優にあて書きをするので、それぞれの俳優に、その人そのものではないが、その俳優から想起される役柄を描いている。  例えば、山本耕史はザッツスターな感じで、肉体を鍛えあげている。竜星涼は劇団☆新感線「髑髏城の七人」に出たときのことを思い出すような属性が付与されていた(女形の所作指導は篠井英介が担当)。浅野和之は得意のパントマイムを披露するし、若手の濱田龍臣はこれからの若者として先輩たちの背中を見て学ぶというような役割である。  そんななかで、大泉が演じるチャペックは裏方役なのである。裏方だって立派に演劇をつくるメンバーのひとりではあるが、各々技をもつ俳優たちとは並ぶことはできない。ほかの俳優役の俳優たちがなにかしら芸の見せ場があるのにチャペックには何もない。  現実ではスターの大泉洋が、この芝居のなかでは地味な役割であることことが面白い。ひときわ輝いている俳優が舞台のうえで哀しい目にあったり笑われたりすることで、観客の心はなんだか浄化されることがある。憂さ晴らしができるのだ。 「ハケンの品格」で大前春子に相手にされない東海林と同じく、大泉洋はなにかとフィクションのなかである種の生贄(いけにえ)として身を捧げている。それができるのは選ばれた人なのである。三谷は「大地」を「俳優論」として書いたそうだが、大泉洋に当てた役割こそ俳優が背負った十字架だと感じた。
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私たちは大泉洋に救われている
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