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『恋あた』新鮮さのないドラマの中で森七菜が愛される理由

『東京ラブストーリー』赤名リカとの違い

東京ラブストーリー

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 井上樹木というキャラクターを見ていると、『東京ラブストーリー』(1991年版)の赤名リカ(鈴木保奈美)を少しだけ重ねてしまうのは筆者だけだろうか。いちずな恋心と好きな人といるときの幸福な表情、哀しみや恥ずかしさを笑顔で隠そうとする強がり、そしてときおり見せる大胆さ。  そこでも比べてみて思うのは、井上樹木=森七菜のほうがずいぶんと素朴であるということだ。視聴者に寄り添う素人っぽく純朴な側面があり、その素朴さゆえに神秘的なまでの美しさを携える瞬間がある。 「選ばれる/選ばれない」側に立っていた彼女が、ひたむきにスイーツ開発に努力し、あるひとりの人に恋心を届け続けたことで、第9話のラストに「選ぶ」側に立つというのは、ある意味当然のなりゆきなのかもしれない。彼女がもつ才能以上の特別な個性が認められるときがきたのだ。

自分を愛せない登場人物たちの選択

 王道をなぞりながらも「2020年らしい」物語になっているのは、登場人物たちの「自己肯定感の低さ」が一つの軸になっているからではないだろうか。恋においても仕事においても、彼女たちは挑戦と諦めを何度も繰り返していて、そこには恋愛ドラマ特有の強引さが感じられない。  例えば北川里保(石橋静河)は、すれ違いで別れてしまった拓実とヨリを戻すことに成功するも、彼の好意が樹木のほうに向いていることを察して自ら別れを告げる。  例えば拓実は、自らの思いに反して社長を解任されてしまったあとも具体的な弁明はせず、コンビニのいち店員に甘んじてしまう。  樹木はコンビニに陳列された商品と己を重ね、自分が選ばれない側の人間であると悲観的に語っていたし、新谷(仲野太賀)は才能やアイデアのなさから他の3人に対してコンプレックスを抱いている。
『恋あた』は、そういった自分を愛せない人たちのある種の「成長」の物語でもあり、それが最後、選ぶ側に立てなかった樹木の「選択」へと結実していくわけだ。移動式コンビニなどで見せた樹木の他人を想う純粋な行動はスノードームを舞う雪のように拓実のからだを纏(まと)い、やがて「好き」という感情として心に降り積もっていった。  人を想うこと、そして自分を愛することがどれだけ大事で尊いものか。そのことに気づいた登場人物たちが、ラストにどんな選択をするのか。最終回の結末すらも既定路線である気がするが、そこで見せる樹木たちの美しく自信たっぷりな表情には期待したい。 <文/原航平>
原航平
ライター/編集者。1995年生まれ。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』などで、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。カルチャー記録のブログ「縞馬は青い」を運営。Twitter:@shimauma_aoi
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