海外では約90か国以上の国で、緊急避妊薬を薬局で処方箋なく購入できるそうです。日本でもようやく、という流れになったわけですが、深沢先生は「アフターピルは中絶薬ではないということは、知っておいてほしい」と言います。
「緊急避妊薬は排卵を遅らせたり、子宮内膜に受精卵が着床しづらいようにすることによって妊娠をしないようにするものです。
すでに排卵していた場合は効果が減弱します。アフターピルは緊急時のための薬であり、継続的かつ確実な避妊のためには低用量ピルの服用が最も適しています」
緊急避妊薬は、服用すれば確実に避妊できるというものではないということ。
「こんなケースもありました。ある女性が、
緊急避妊薬を服用した後に出血があったからといって、その出血を生理だと勘違いしてしまったのです。しかし翌月に生理がやって来ず、実はお腹の中で赤ちゃんが育っていました」
その方は、初期中絶ができる時期を逃してしまったのだそうです。
「個人差があるのですが、アフターピルを服用後、1週間から2週間後に出血があることがあります。『生理がきた』と思っても、その出血は月経ではない可能性があります。出血の有無に関わらず、
アフターピルを服用してから3週間後に妊娠検査薬を使って陰性が出るかを確認しておくと安心です。避妊できたことが確認できるまではセックスを控えてください」
そのほかにも、病院ではアフターピルを処方する際、いくつかの確認事項や情報提供を行っていて、そうしたアドバイスを、薬局で購入できるようになったときどうしていくかが課題だと深沢先生は指摘します。
「処方する際にはまず、性交があった時間、その時点での妊娠の可能性を知るため最終月経を確認します。
仮に性交から72時間を過ぎてしまっていても、120時間以内だったら『IUD(子宮内避妊用具)』という器具を子宮内に挿入し、子宮内環境を変えて避妊効果を得るという方法もありますので、必要であればその説明もします。加えて、性感染症のこと、アフターピル服用後の注意、今後の避妊方法についてですね。こうした情報をリーフレットにまとめて薬と一緒に渡すなど、なんらかの形でアフターフォローができるといいです」
その際、深沢先生が是非、一緒に知らせたいというのが「
#8891(覚え方は、“シャープはやくワンストップ”)」だとか。
「
性暴力被害相談の全国共通短縮ダイヤルです。思いもよらない事態にあってしまったとしても、相談する場所はある。それを知っていてほしいですね」
2019年秋に起こった就活中の女子大生による乳児遺棄事件は、記憶にある方も多いと思います。彼女に何があったのか、詳しいことはわからないけれど、もし、アフターピルがすぐに手に入ったら? もし、誰かに相談していたら? と思わずにはいられません。自分のからだのことは自分で決められる。苦しいときは誰かに助けてと言える。予期せぬ妊娠に苦しむ女性がアフターピルで減るのであれば、それを認めない理由はやっぱりない、と思うのではないでしょうか。
<深沢瞳子 取材・文/鈴木靖子>
深沢 瞳子
産婦人科医。
赤羽駅前女性クリニック院長。女性のためのトータルケアホスピタルとして気軽に相談できる存在を目指しており、特に生理痛やPMSや月経不順といった生理に関連する諸症状の解決に力を入れている。