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インスタで話題、マスクする名画の人物たち。マスク着用の啓蒙効果も

 新型コロナウィルスが世界に蔓延し、マスク着用が日常化しました。  アーティストたちが様々な形で新しい生活様式を自分たちの作品に取り入れたことも話題になる中、17~18世紀に描かれた名画をマスク“のようなもの”でコラージュする肖像画アートがインスタグラムで注目を集めています。

コロナとは無関係に始めた肖像画コラージュ

 レンブラントの作品をはじめ、中世に描かれた肖像画の顔を隠してコラージュし、新しいアートとして生まれ変わらせているのは、ドイツ人アーティストのフォルカー・エルメスさん。 『ヴォーグ Vogue』のインタビューによると、彼がこの「Hidden Portraits(隠された肖像画)」というプロジェクトを始めたのは10年ほど前。  もともとは、肖像画に描かれた人物の顔を隠してしまうことで、顔以外のディテール、特にファッションに注目してもらいたいと始めたプロジェクトだったそう。 「当時の肖像画にはほとんどの場合、名もない貴族や金持ちが描かれています。いくら顔を見つめても描かれているのがどんな人物なのか、私たちには分かるはずもないのです。  ところが、多くの人がその顔つきや表情などに目を奪われてしまい、一緒に描かれているファッションや壁紙の模様などには無関心だということを、ある調査報告で知って衝撃を受けました」
 コロナ禍のこの状況にぴったりのテーマに思えますが、実はコロナとは無関係に始めた企画。そのため、顔を隠しているのもマスクではなく、ルネッサンス絵画などでよく見る大きなヒダのついた襟やスカーフなど、衣服の一部が大半です。 「どの肖像画も大金を払って画家を雇い、一番高価なドレスを身につけて描いてもらっているはずです。それにまったく目を向けないのはもったいないですからね」
 こうして始めたファッションに焦点を当てた肖像画プロジェクトは徐々に注目を集め、ヨーロッパ各地で展覧会を開くまでに。  2019年からはインスタグラムもスタートし、同プロジェクトの肖像画の他、昆虫に幾何学的な物体をあわせた抽象画の投稿を続けていました。

世界中にあふれるマスクアートの中で異彩を放つ

 新型コロナ感染がヨーロッパ各地に拡大すると、6月には、ロックダウンで休館をよぎなくされた英ケンブリッジにあるフィッツウィリアム美術館が、同館で所蔵する名画に感染防止用のマスクを描いたポストカードを販売し、資金集めをしたとCNNなどで話題になりました。
 また、覆面アーティストのバンクシーは、ロンドンの地下鉄車両内にマスクで遊ぶネズミの姿を描いた他、日本ではLINEスタンプの人気キャラクターがマスクを着用した姿で、人々に手洗いやうがいを促し、銀座三越のライオン像は、今もマスクを付けた姿でデパート正面入口前に鎮座しています。
 一方、エルメスさんのインスタグラムには「Hidden Portraits」プロジェクトの肖像画ばかりが並ぶようになり、3月には顔を隠すツールとして感染予防用の白いマスクを着用した夫人の肖像画を投稿。
 しかし、エルメスさんにとって肖像画アートは、マスク着用を啓発する目的で始めたのではなく、あくまで名画の中のファッションにもっと目を向けてもらうための表現方法。今もなお、顔を隠すツールはマスクではなく、襟やスカーフなどファッションアイテムをメインに製作し、世界にあふれるマスクアートの中で異彩を放っています。  パンデミックによって思いがけない意味付けをされてしまったエルメスさんの肖像画アートですが、それでもやはり、マスク慣れしていなかった欧米の人々にマスク着用の重要性を認識させるのに一役買っていると、メディアからも注目を集めています。 Sources:「Vogue」「CNN」 <文/橘エコ> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
橘エコ
アメリカ在住のアラフォー。 出版社勤務を経て、2004年に渡米。ゴシップ情報やアメリカ現地の様子を定点観測してはその実情を発信中。
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