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SMAPとファンモンの大ヒット曲を作った、達人女性を知っているか

「あとひとつ」のていねいな型

「あとひとつ」も同様のパワーを持つ曲で、必要以上に熱を発するファンキー加藤(42)がうっとうしくても、<あと一粒の涙で ひと言の勇気で>というフレーズは、確実に刷り込まれてしまう。感動大好きな風潮に嫌気がさしたとしても、音楽そのものは受け入れざるを得ない。なぜなら、ここにも丁寧な型があるから。
Yuka Kawamura Best”Works”

『Yuka Kawamura Best”Works”』(エピックレコードジャパン)。川村さん自身が歌う「夜空ノムコウ」も収録

<あと一粒の涙で>で頂点に達したあと、音程を下げた同じ型のメロディで<ひと言の勇気で>とフォローする。すると、<涙>と<勇気>の相関が立体的に浮かび上がってくる。それが抑制された勇気であることを、音楽が示してくれているのですね。  正しい和食のように整然と配膳された安心感。品の良い規則性にひれ伏す快感を覚えます。  「あとひとつ」も「夜空ノムコウ」も、どちらかといえば歌詞がクローズアップされがちですし、それ自体は自然なことなのだと思います。しかし、それらの言葉を確実に届け、理解させ、さらには歌という一連の運動のまま、無意識のうちにハミングさせてしまう。川村結花の曲は、そのように内側から人を動かす静かな力感に満ちています。AメロもBメロもない。いわば全部がサビのように、どこの部分を取っても記憶に残る個性があるのです。

川村結花が歌う名曲「遠い星と近くの君」

 彼女が1999年に発表した傑作アルバム『Lush Life』収録の「遠い星と近くの君」は、忘れがたい一曲です。語りかける口調をそのまま音楽に乗せた自然な風合いと、緻密な理論と熟練の技術が同居している。にもかかわらず、BGMの鼻歌としてやり過ごせる気楽さもある。まるでビートルズだと感じたのを思い出します。 「あとひとつ」や「夜空ノムコウ」が愛唱歌となった背景に、このロマンティックな達人ソングライターがいることを忘れるわけにはいきません。 <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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