タカラジェンヌたちは東京2020オリンピック競技大会のコンセプトにある「多様性と調和」にふさわしいといっていいのではないだろうか。
東京2020オリンピック競技大会の公式サイトには“人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。”とある。
宝塚は女性が惹かれる男性の魅力を研究しつくし様式化して演じることで独自の表現を創りだしている。女性らしくというような決めつけから解き放たれた表現は日本の芸能のなかで多様性の可能性をもったひとつといえるだろう。

JMPA代表撮影
開会式にも宝塚ゆかりの人物が参加していた。真矢ミキである。木やり唄とダンスのパフォーマンスで棟梁役(とうりょうやく)として颯爽(さっそう)と登場した真矢ミキは宝塚の男役トップスターだった。1998年に退団した後は、社会で男性と肩を並べて仕事するようなしっかりした役を多く演じてきたが、粋な棟梁役は久々のジェンダーレスな役どころで、真矢のポテンシャルを存分に発揮し輝いていた。
開会式では市川海老蔵による歌舞伎「暫」とジャズのコラボがあったが、そこに多様性を見るにはまだまだ練りきれていないように感じ、歌舞伎を取り上げるなら、例えば坂東玉三郎のように性も年齢も超えたような表現を見せてほしかったなあと筆者は思って見たのだが、代わりに、一般的に男性の仕事と思われている棟梁の役を真矢ミキが受け持っていたと考えれば、ああそうかという気もする。

JMPA代表撮影
木やりに関しては東京都の肝いりで行われたとされ、小池百合子都知事に敬意を評して女性が演じたのかなという事情も想像してしまうわけだが、政治的な事情はさておき女性を立てることは悪くはないだろう。
さらに閉会式に現役のタカラジェンヌが登場したことで、国が求める「多様性」にはだいぶ近づいたことだろう。1914年からの100年を超える長い歴史を誇る宝塚歌劇団はジェンダーのみならず、日本人が欧米人に扮し欧米の物語を演じて見せる、それこそ多様性にいち早く取り組んでいるといえるからだ。