彼女は食材を買ってやってきて、ふたり並んで料理をした。ふだんは料理などしないナオヤさんなのだが、彼女と一緒の作業は楽しかったという。
「ただ、そのあとすぐ、彼女とは別れました。彼女、自分の存在をアピールしたかったんでしょうね、バスルームの排水口のところにピアスを置いていったんですよ。実は僕、不倫をしていた男友だちからそういう話を聞いていたので、しっかりチェックして見つけたんです。
翌日会社で、こっそり封筒に入れたピアスを渡しました。彼女はあとで『どこにあったんですか? 落として困っていたんです』とメッセージを送ってきたけど、『自分の胸に聞いてください』と書き送りました。それきり私的な関係はもっていません。
女は怖いです。でも自宅に入れたのは失敗でしたね。それ以来、かなり長い間、家でビクビクして過ごしていましたから」
自分のテリトリー、しかも彼女とは関係のない家族が住んでいる自宅に、不倫相手の女性を入れるのは、やはりどう考えても「ルール違反」である。
もしかしたら、男たちは、「自宅は自分のもの」と思っているのだろうか。だから妻子のことも考えずに引き入れてしまうのだろうか。だとしたら家族の存在は彼にとって何なのだろう。
「いや、そんなふうには思っていないですよ」
ナオヤさんは反論する。
「家族を貶(おとし)めるつもりも傷つけるつもりもなかった。たいしてお金も使わず、自分が出かけることもなく彼女が来てくれるのはラクチン。それだけでした」
つまり、深くは考えていなかったということだ。男性は、婚外の恋に酔ってしまい、冷静な判断ができなくなることも少なくない。
ナオヤさんの場合、家族にバレずにすんだのは運がよかっただけのこと。不倫相手が彼の自宅の一部を撮影、その写真をSNSを通じて妻に送っていたという例を聞いたこともある。彼自身に家族を傷つける意図がなくても、相手の女性が何を考えているかはわからない。
不倫の善悪は脇に置いたとしても、不倫を「ひとつの恋」として完結させるためには、自宅や家族とは無縁の場所で会うのが当然ではないだろうか。
【他の記事を読む】⇒
シリーズ「亀山早苗の不倫時評」の一覧はこちらへどうぞ
<文/亀山早苗>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】