「だから、見た目だけの“自称元ヤン”かなと思っていたんです。私の地元にもそういう方が多かったし、ウチの兄がまさにそうでしたから(苦笑)。
けど、カップルの男性のほうは金髪ピアスで街で見かけても絶対に近寄りたくないタイプ。ところが、夫はそんな相手と対峙(たいじ)してもビビっている感じには全然見えませんでした」
男性は立ち上がって「おいコラ! ケンカ売ってんのか?」と威嚇(いかく)しますが、それに対しても「何トチ狂ったこと言ってんだ? さっきからケンカしてんのはテメーらだろ。こっちはカミさんと楽しくメシ食ってんのに邪魔すんなやボケが!」と夫は言い返します。
これには向こうも一瞬ひるんだらしく、カップルの女性があわてた様子で何度も夫に頭を下げ、男性の手を引っ張ってレジへ。清算を済ませるとそのまま店を出てしまったといいます。
「逆ギレされた彼は、私がそれまで見たことがないような怖い目つきで男性をにらんでました。兄とは違ってガチの元ヤンだったんだと気づきましたが、そうだとしても相手が刃物を持っていた可能性だってあるし、危ないじゃないですか。そう考えると、夫にだんだん腹が立ってしまって……」

自分の席に座り、食事を再開しようとした夫は少し気まずそうな顔をしていたとのこと。すると、あかねさんが怒った表情をしていたのがわかったでしょう。必死に言い訳を始めたそうですが、もちろん彼女には通用しません。
「何か起きてからじゃ遅いし、隣の席がうるさければ店員さんに頼んで別のテーブルに移動すれば済むことじゃないですか。いい年した大人がやることじゃないってガミガミ言っちゃいました。
さすがに夫も思うところがあったらしく、『ごめん、今後は気をつける……』と反省した様子でした」
その後の追求で彼は中高生のころ、ケンカに明け暮れていたことが発覚。さらに空手やボクシングの経験もあったそうで、なまじ腕っぷしがあったがゆえにイカつい風貌の相手にもまったく動じない胆力が備わってはいたようです。
「私は昔からそういう方とは距離を置き、関わらないようにしてたのに夫がそっちの世界の人だったなんて。ただ、あんな態度を取られたら私は耐えられそうにないため、『夫婦ゲンカをしてもあのときみたいにキレるのは反則。もしやったら離婚する!』とクギを刺しています(笑)」
結局のところ、一番強かったのは妻である彼女だったようです。
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<文/トシタカマサ イラスト/ただりえこ>
トシタカマサ
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。