「いつもと違ってムワッと生暖かい空気が流れてきて『え、そんなバカな!』とあわてて、タマちゃんを探したんです」
リビングにつながる半分まで閉まってていた引き戸を全開にすると、やっぱりクーラーは消えていました。
「ですが、タマちゃんはいつも通り元気でニャーニャー言いながら足にまとわりついてきたので心底ホッとしました。まさかと思って調べてみると、その日の午後に私の住んでいる地域が少しの間停電になったみたいで、そのせいでクーラーが止まったしまったようです」
タマちゃんをなでながら、由里子さんは「あれ、なんで玄関や廊下はあんなに暑かったのにリビングは割と涼しいままなんだろう?」と不思議に思いました。
「それもなんかクーラーの冷気とは違う、子供の頃に田舎の軒先で昼寝している時みたいな清々(すがすが)しい空気を感じたんです」
そして、なぜか戸棚にしまっておいたはずのクリアファイルが床に落ちていたそう。
「それを見てパッと頭の中に、子供の頃、私が昼寝しているといつの間にかおばあちゃんが横に座っていて、出前のメニューとかその辺にあるものでよくあおいでくれていたなと、忘れていた思い出がよみがえってきたんですよ」

そのクリアファイルを拾いあげて中身を見てみると、生前にお祖母さんにもらった絵葉書がはさまっていました。
「なくしてしまったと思い込んでいたので、こんなところあったんだと驚くと同時に、きっとおばあちゃんがこの部屋に来てくれたんだと直感しました」
きっとお祖母さんが、昔みたいにあおいでくれてタマちゃんに田舎の涼やかな風を送ってくれたに違いないと思い、由里子さんは涙がでたそう。
「きっと私達を見守り続けてくれていたおばあちゃんが、タマちゃんの危機を救ってくれたんでしょうね」
その翌日、由里子さんは部屋にその絵葉書を飾ると、お祖母さんの好きだったひまわりを買ってきてお供えしました。
「おばあちゃん家の庭に毎年咲いていた思い出の花なんです。『これからも私とタマちゃんを見守って下さい』と手を合わせました」
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<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
@skippop