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赤ちゃんの遺棄事件はなぜ続く?「ひどい母親」と言う前に想像してみてほしいこと

 赤ちゃんの遺棄事件が後を絶ちません。
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※イメージです(以下、同じ)

 2020年11月、就活のため上京した神戸在住の女子大生(当時)が、羽田空港のトイレで産んだ赤ちゃんを殺害し、その遺体を新橋の公園に埋めた事件を記憶している人は多いのではないでしょうか。  直近でも、2022年6月に北海道・JR千歳駅のコインロッカーから、また同月、大阪市の駐車場から赤ちゃんの遺体が見つかっています。7月には神奈川県秦野市の畑に赤ちゃんの遺体を遺棄したとして10代の少女が逮捕されました。  なぜこのような事件はなくならないのか。これらのニュースを見て「ひどい母親だ」と一蹴するのは簡単ですが、そこに至ってしまった背景にはどのような事情があるのでしょうか。  そこで今回は、望まない妊娠をした若い女性を支援する「妊娠SOS新宿」の佐藤初美理事長と丸岡紀子副理事長に話を聞きました。

相談者の多くが虐待を受けて育った女性

 妊娠SOS新宿は、新宿エリアをはじめ全国からの妊娠相談を受け付け、思いがけない妊娠で困っている10代~20代の女性を福祉の窓口につなげる活動を行っているNPO法人です。  相談窓口には日々どのような相談が寄せられるのでしょうか。 「『妊娠したかもしれないけどお金がない』『レイプされてしまった』など事情はさまざまです。土地柄もありますが、売春や風俗関係など夜の仕事をしている女性も少なくなく、子の父親が不明で誰にも相談できずに私たちのところに辿り着いてきます」  なぜ、誰にも相談できないのか? その大きな要因として、幼少期より虐待を受け続けて人を信頼できない背景を抱えています。 「私たちの相談者の多くが虐待やネグレクト(育児放棄)を受けて育っています。『それなら役所に相談にいけばいいのに』と思うかもしれませんが、彼女たちは幼い頃からの経験で、行政に救ってもらえたという実感を持っていません。役所の窓口に行けばよいことはわかっていても、助けを求めることを諦めてしまい、相談に行くことさえできないのです。  親に対する安心感が得られない生育環境では、自尊心や、人と関わる力がうまく育ちません。だから、行政に限らず他人を信じることも難しい。自分の身に予期せぬ事態がおこったときに『自力で調べて、そこに助けを求める力』や『自分に何が必要か判断する力』が育っていない若年女性の割合が年々増加しています」  そのため佐藤さんたちは病院や福祉の窓口等にも同行し、制度についてわかるように説明するなど、手取り足取り支援を行っているといいます。また、福祉につながったあとも連絡を密にとり、孤立しないように寄り添い、伴走を続けているそうです。

どこにも居場所がなく、繁華街へ出る若い女性たち

AdobeStock_505073248 彼女たちが望まない妊娠をしてしまうに至った経緯には「家や学校に居場所がないこと」が大きく関わっているといいます。 「親と関係性が悪くて家に居場所がないだけでなく、人との関わり方が育っていないために学校でも孤立してしまう子が多くいます。そのため、居場所を求めて歌舞伎町のような繁華街にデビューする年齢が低くなり、早いと小学4年生くらいの子もいます。  昼間のアルバイトを始めても職場の人間関係がうまく行かず、少々コミュニケーションが苦手で、風俗や売春の仕事に行き着きます。お店に所属する子もいれば、アプリやSNSを駆使して個人で客をとる若年女性もいます。その結果妊娠してしまうケースが多々あるのです」  風俗で働く相談者には、男性から暴力を受けた経験がある女性がほとんどだという。 「売春の相手などから暴力を受ける中で『この人は危険』などと皮膚感覚で感じ始めるので、そういう男性を避ける知恵は働くようになるのですが、結果的にDVをする男性と付き合ってしまう子が多いですね。  親から常に暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたり、支配関係の中で育ってきているので、いわゆる“健全な人間関係”、“健全な恋愛”という状態を知らないのです。だからどうしても、育った環境と似たように、支配によって関係を保とうとする男性を選んでしまう傾向があるんだと思います」
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中絶を希望しても、法律上できないケースも
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