――香取さん演じる裕次郎の行動で面白かったことがあります。難所を切り抜ける秘策としての肘舐めです。まさかの場面でも、ほんとうにあんな力があるのかと驚きました。みなさんにも裕次郎のように、何か緊張をほぐす方法があったら、教えてください。
香取:撮影前に何もしない。あまり準備をしずぎないないことです(笑)。
的場:(笑)。
――香取さんは前日に台本を読み込んで台詞を頭に入れたりしないと聞きました。
香取:そうですね。子どもの頃に準備していって、物凄く緊張して失敗した経験があるんです。結局のところ、現場でしか分からないことがたくさんあります。現場に監督に言われたこと、現場の空気、現場で着る衣装など、それらの要素を総合していくうちに、じわじわ肌感覚として分かりました。
――どのあたりの作品からそういうスタイルになりましたか?
香取:スタイルとして確立された時期は分かりませんが、何となく感じるようになったのは、おそらく小学生か中学生だと思います。
的場:僕は、映像の現場で悪い緊張をすることがないんですよ。逆に言えば、普段の自分でいることが、現場で緊張しない方法なのかもしれません。
――的場さんでも緊張するものはあるんですか?
的場:舞台は、緊張します。自分が舞台に出演し始めたのが、30代と遅かったので、未だにすごく緊張します。ただそのときの緊張は、ほぐさないです。悪い緊張はほぐす必要がありますが、気を乗せている緊張は持っているべきです。
僕は、台詞を覚えていきますが、現場に入って、本番寸前になるまでは、全然集中していません。でも、本番直前なると、きゅっとしめて、自分の世界を作ります。
井之脇:僕もあまり緊張しません。朝起きて、シャワーを浴びて、身体をふいて、髪を乾かして、バナナを食べて、プロテインを飲んで、家をでるときは、左足からというように、ルーティーンが多いからかもしれません。
的場:え~。
香取:すごい。
井之脇:エレベーターの中でストレッチをしています(笑)。無意識ですけどね。家をでて仕事場に行くまでが、すべてルーティーンの中にあるんです。それを毎日やっていると、同じリズムで現場に行けるので、変な緊張感は持たないです。的場さんが仰ったように、いざ撮影となると緊張しますが、その緊張感は大切にしています。
的場:間違えて右足からでちゃったことはないの?
井之脇:ないですね。僕は昔、お婆ちゃんと住んでいたので、「畳みは左足で越しなさい!」などの教育が染み付いているんです。
的場:あ~、なるほど(笑)。
――それは、映像、舞台関係ないんですか?
井之脇:関係ないです。舞台のときも、時間前に入って、どういうストレッチをして、何分前になったら、楽屋を閉めてというのが、全部ルーティーンとしてあります。
若槻は、等身大の役だったので、背伸びせず、気負わずに、すうっと、演じることができました。
「お互いがお互いのことを、思い続けること、考え続けること」
――余貴美子さん扮する蓑山が、夫婦関係は、「鰻の掴み取り」だと言ったり、「相手のことがわかったと思ったらまたわからなくなる」という印象的な台詞から、人間関係について学ぶべきことが多い本作です。本作を通じて、価値観が変わったなと思うことはありますか?
香取:言葉を声にだすことの大切さについて、僕は、この作品を通して、改めて考えさせられました。観客のみなさんにも、是非、そんなことを感じていただけたらと思います。
的場:それぞれのキャラクターがユニークな作品です。一回ではなく、何度観てもほんとうに笑える映画だと思います。毎回、誰か違う人の目線で観ることをおすすめします。
昔はよく、「空気のような関係は、素敵だよね」と言っていました。長く一緒にいるから「空気のような関係」というのもいいのかもしれませんが、空気はそもそもなくなったら息ができなくなる。それくらい大切なものなんです。だからこそ、この作品を通じて、お互いがお互いのことを、思い続けること、考え続けることが大切だと感じました。
井之脇:この作品には、様々な結婚模様があります。裕次郎と日和のふたりは、あまり夫婦関係がうまくいっていない。他にもバツ三の人がいたり、これから結婚しようとして、マリッジブルーになる人、女性同士で法律上は結婚できない人。でも、どんな形であっても、結局は、お互いのことを思い合っていることだと思うんです。
すれ違っていても、どこかで相手のことを思っている。本作が描く結婚を通して、誰かのことを思い、自分自身のことを考える、ちょっとしたきっかけになったらいいなと思います。
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<取材・文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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