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横浜流星の「目に涙を浮かべた表情」が完ペキ。映画『線は、僕を描く』の魅力を読み解く

ツンツンしている清原果耶との掛け合い

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会 横浜流星は不良性のある役柄も演じてきたが、今回の『線は、僕を描く』では善良で優しい性格をした青年となっている。前述してきた通り、冒頭で涙を浮かべたり、つらい過去を持ってはいるのだが、一方でそれほどウジウジもしていない、親しみやすく愛らしいバランスのキャラクターになっていることも長所だろう。  その親しみやすさに大きく寄与しているのは、姉弟子を演じた清原果耶。水墨画に対して圧倒的に先輩である彼女は、素人なのにいきなり弟子入りしてきた主人公にツンツンした態度でいる。彼女の不機嫌さに戸惑ったり、はたまた真面目に学ぶ姿勢でいる横浜流星が、相対的になんともいじらしくて、かわいらしく思えてくる。  下世話な言い方だが、「陰キャ気味でおどおどしているけど真面目で誠実な横浜流星」と「ツンツンしてしているけど次第に打ち解けていき時には素直になる清原果耶」という、なんとも愛おしい関係性も楽しめる作品でもあるのだ。さらに、主人公を心配する親友2人を、細田佳央太と河合美優という若手実力派俳優が演じており、彼が横浜流星を引っ張っていく様も、微笑ましく見られるだろう。  なお、小泉徳宏監督はこれまで『タイヨウのうた』(2006)や『ガチ☆ボーイ』(2008)などの「難病もの」のような、描きようによっては重々しくなる題材の映画も手がけてきたが、それらはコメディシーンも多く、ウェットな演出に傾きすぎないバランスに仕上がっていた。主人公が重い過去を背負う今回の『線は、僕を描く』もクスクス笑える場面があり、明るく前向きな雰囲気も存分にあることは長所だろう。

誰よりも熱心に水墨画に向き合い続けた

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会 競技かるたを題材とした小泉徳宏監督作『ちはやふる』に続き、スタッフとキャストが一丸となり、水墨画という日本ならではの文化および芸術に、これ以上ないほどに真摯に向き合い、それが映像作品として見事に結実しているのも、本作素晴らしいところだ。  もちろん俳優それぞれは水墨画を猛特訓しており、なかでも横浜流星は誰よりも熱心に水墨画に向き合い続けた。彼はコロナ禍の影響で撮影が大幅に延期になったときも、水墨画監修の小林東雲とオンライン上で作品のやり取りをし続け、多忙を極める中で少しでも時間があけば、「練習がしたい」とスタッフに連絡をしてきたという。そのため、横浜流星が描く水墨画そのものはもちろん、所作、姿勢なども、すでに初心者とは呼べないレベルへと上達していったのだそうだ。  さらに、『ちはやふる』から続投の横山克の流麗でエモーショナルな音楽は、徹底的なまでにこだわって編集された映像とシンクロし、水墨画を描く筆の動きが、まさに芸術として映るようにもなっている。横浜流星をはじめとした、それぞれの俳優が描く水墨画、筆を動かす動きまでもが心から美しいと思える、その一瞬一瞬を、ぜひ映画館で堪能してほしい。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます <文/ヒナタカ>
ヒナタカ
「女子SPA!」のほか「日刊サイゾー」「cinemas PLUS」「ねとらぼ」などで映画紹介記事を執筆中の映画ライター。Twitter:@HinatakaJeF
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