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「母親なんて疲れた」『PICU』が見事に描く子育てのリアル。1つだけモヤッた部分も

なぜ父親の存在はスルーされてしまったのか

 ちなみに、最終的には奈美がわが子と向き合う、というハッピーエンド的な締め方になった。しかし、冒頭から抱えたある違和感が全く解消されなかったことは残念でならない。  それは「この子の父親はどこにいるのか?」という疑問が解決していないからだ。子どもは女性だけでは作れない。父親の存在については、奈美の口から「あの子の父親には何度も連絡したけど連絡取れなくて」と語られるのみ。この話を聞いた際、武四郎から「父親は無条件に子どもが可愛いもの」といった旨の発言は一切なし。さらには、PICUのメンバーは誰も「父親を探し出そう」とは言い出さず、“赤ちゃんを奈美が引き取るかどうか”という軸で進んだ。  とはいえ、PICUに搬送された時点で赤ちゃんの親権は奈美にあり、父親との間に何かしらのいざこざがあった可能性は十二分に想定される。夫婦の親権をめぐる裁判では、9割以上は母親に親権が渡っている*ため、父親にも出産に関して納得できない部分があったのかもしれない(*2020年度 司法統計より)。それでも、終始「子どもは母親が育てるもの」という前提でストーリーが展開され、あらゆる責任・決断を奈美1人に押し付けられる様子には胸が痛くなった。

奈美たちは父親から養育費を受け取れるのか

 これは余談になってしまうが、はたして奈美は父親から養育費を取れるかも心配だ。弁護士ドットコムが2021年に実施した調査によると、養育費を受け取る立場の女性の中で、「満額の支払いではない」もしくは「支払いが定期的でない」など、「養育費の受け取りに何らかの支障があった」と回答したは53.8%と半数以上。 その中でも「途中から受け取れなくなった」(22.4%)が最多だった。  なお、養育費を受け取る立場の男性は調査対象の7.9%で、こちらは全員が「養育費の受け取りに何らかの支障があった」と回答している。  養育費の未払いはひとり親家庭の貧困化に直結する、早急に対処すべき課題である。医療現場の人手不足など、様々な問題に切り込む同作だからこそ、その辺りにも個人的には踏み込んで欲しかった。ただ、緊迫する空気感、魅力的な登場人物、特に麻酔医・今成良平(甲本雅裕)の人柄に心を奪われて仕方がないほど、ついつい引き込まれてしまう注目すべきドラマであることは間違いない。今後も楽しみに放送を待ちたい。 <文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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