シカゴから帰国した歩が、自然豊かな田舎道をバスで走っていると、前の席の老夫婦が騒がしく絡んでくる。こんな田舎に何をしにきたのか、それはデートなのか、それとも自分探しなのかと、まぁうるさく呑気に一方的な質問をする。すると夫婦の夫のほうが苦しそうにして倒れ込む。先ほどの質問ですっかり調子を崩された歩は、どうしていいのか分からない。バスを急停車した運転手が、医者はいないか聞いてもすぐに反応しない。
そこへ飛び出したのが、近くの席で意味ありげに座っていた九鬼静(中井貴一)。九鬼は歩のことを指してこの人は医者だと説明する。歩は調子を取り戻してすぐに応急処置を施そうとするのだが、トイレが我慢出来ないと言って九鬼は外に飛び出していく。その拍子に老夫は詰まらせていた甘栗を吐き出す。
日本に舞台が変わり、中井貴一が登場すると、こうも簡単にいきなりコメディだ。九鬼がドラマの緩衝剤となって、冒頭の忙しなさからこの先はちょっと肩の力を抜いてドラマを楽しめるという、絶妙な配分とあんばい。一件落着。車内にいる乗客全員に向かって歩は、「医者じゃありません。トラベルナースです」と言う。
トラベルナースとは、ひとつの病院には属さない、渡り鳥のような存在。優秀な人材なら、日本から世界へ、世界から日本へ、世界から世界へ、各地を飛び回るのだろう。日本から世界(ハリウッド)へ飛び、箔をつけてきた現在の岡田将生には、やっぱりこれ以上ぴったりな役はない。
歩と九鬼が働く「天乃総合メディカルセンター」は、拝金主義の院長・天乃隆之介(松平健)が独裁的に采配をふるっている。天乃が高額なギャランティを払うため大きな期待が寄せられる歩は、初日からちゃきちゃき働き、日本とアメリカとの違いを示すように実力を見せつける。一方、九鬼は、掃除ばかりしているように見えながら、ナイチンゲールの精神に裏打ちされた細やかな看護の力が、すぐに腕のよさを証明する。
このふたり、まるで正反対だが、驚くほど好対照なコンビだ。看護師寮で相部屋になり、歩は待遇の悪さに不満たらたら。九鬼は謙虚を忘れないが、物腰の柔らかな中にうっすら狂気を漂わせる。「かのナイチンゲールは」を枕言葉に、放たれる底が知れない鋭い一言が、アメリカ帰りの歩のプライドを打ち砕く。一言言い終えると、わざとらしくけろっとしている九鬼をよそに、歩は、はじめこそ反発しながらも人間として根本的に鍛えあげ直される。
ナースステーションで高身長が際立つ超絶イケメンな歩と恐ろしいほど折り目正しい九鬼、ふたりの看護師が織りなす調和が、なぜか心地いい。すこしずつ、すこしずつ、ときに性急に激しく、彼らの心の襞(ひだ)が紐解かれる。第2話以降、九鬼の謎が明かされていくとともに、中井貴一の職人技的な力技で、物語はあっちへこっちへ、それでもどこか確かな方向へとどんどん加速する。