だが、窪田正孝演じる謎の男Xは、車の中で急に泣き出してしまう(その理由は後に判明する)など、「安藤サクラ演じる里枝と同じかそれ以上にツラい過去があったのではないか」と思わせるところがある。今に至るまで完全には拭い去れない絶望を味わったことが、その表情や振る舞いから垣間見えるのだ。
窪田正孝がこの役を演じる上でヒントになったのは、撮影に入る前の準備で実際に森へ行き、木を初めて切ったことだったそうだ。そこで彼は「自分の喉元を切るような感覚になり、命を絶つというのはこういうことなのかと、植物から命の重さを感じさせられた気がした」と思ったという(プレス資料より)。
林業に従事するというだけでなく、狂気的ですらある危うさも持ち合わせた男の役作りにおいて、その内面とリンクする「命の重さ」を思うこと……そうしたところに窪田正孝の俳優としての鋭さと感受性の豊かさがあり、やはり演じる役への説得力へと繋がったのだろう。

映画の後半で描かれる彼の「過去」は……ネタバレになるので詳しくは言及できないが、「ある映画」における窪田正孝の役も強く連想させるものだった。そして、物語上では意外な姿を見せる一方で、「窪田正孝が演じてこその説得力と迫力」にも感動があった。
ここでの窪田正孝の演技は、「これほどの人生を過ごして、なんとか希望を掴み取ろうとしたのに、手からこぼれ落ちてしまう人間の表情はこうなるのか」という衝撃を与えてくれたのだから。映画の序盤で描かれた「ささやかな幸せ」とのギャップのおかげで、その悲劇はより際立っていた。