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大人になったヤングケアラーの再生とは「人には絶対に回復力がある」<漫画>

成長したヤングケアラーの苦悩

――大人になってから、どうやって「自分がヤングケアラーだった」と気づくのでしょうか? 水谷緑さん(以下、水谷):ニュースなどで報道されているのを見て気づく方が多いと思います。ただ、当事者としては「ヤングケアラーという言葉自体に腹が立つ」と言う人もいました。「ケアしたくてしてるんじゃない!」と思うそうです。 ――大人になった元ヤングケアラーは、どんな辛さを抱えているのでしょうか? 水谷:自殺願望がある方が多いです。また、自己肯定感が低いことがあります。自分の願望を押し殺して生きてきたので「自分がやりたいことは何か分からない」と感じています。責任感が強いので人に頼まれたことはやり遂げるけど、自分の欲しているものが分からないんです。でも一見すごく悩んでいる感じがしなくて、私から見ればにこやかで人当たりの良い方が多かったです。 あと、「周りの人に腹が立つ」と言う人もいました。自分は何もしてもらえなかったのに、「大学生の時に他の人が仕送りをもらっていることに怒っていた」という人がいました。 ――恋愛ではどうなのでしょうか? 水谷:恋愛の悩みはあまり普通の人と変わらない気がしました。ただ、男性の方で「いつもどこか危うい女の子を好きになってしまう」と言っている方がいました。お母さんがうつ病だったので、似た雰囲気の人に惹かれるそうです。他にも「ダメンズを好きになる」という女性もいました。「必要とされている」と感じてしまうので面倒を見てあげたり、彼氏に「お店を出すから」と言われて資金を貸してしまったり「ついお世話しすぎてしまう」と言っていました。

長年傷ついてきた心を癒すには?

――元ヤングケアラーが自身を癒していくためには何が大切だと思いますか? 水谷:人それぞれだと思うのですが、執筆する上では「優しい彼氏に出会ったから」「子供が産まれて癒されました」という話にはしないよう意識していました。主人公は結婚しますが、旦那さんの影響はそこまで大きくないと思います。他人との出会いはきっかけにはなりますが、そこで自分が何を感じるかが大切だと思います。自分自身で問題意識を持ってどう向き合っていくかが後半のテーマでした。 1つのきっかけとして、怒りや悲しみの感情が出せるようになると変わってくるそうです。取材した中で「ずっと怒りの感情がない」と言っていた看護師の女性がいたのですが、仕事の研修でファミリーヒストリーを話す機会があったそうです。そこで他の人の話を聞いているうちに「皆の家族は立派でいいな、私の家はこうなのに」と初めて怒りを感じたと言っていました。そこから「家族全員ムカつく!」と強い怒りが湧いてきたそうです。そうやって根本的に振り返ることがきっかけになった方もいました。
(画像提供/文藝春秋)

(画像提供/文藝春秋)

――ヤングケアラーだったことを、自分自身で再認識することが大きな一歩なのかもしれないですね。 水谷:でも、思い出したくないことまで全部振り返らなくてもいいと最近は思っています。自分と向き合うのが怖い人もいますから。そういうのが苦手な人は自分が好きなことをやってみるだけでもいいと思います。元ヤングケアラーの方で「昔からサッカーをやっている時だけは楽しかった」と言っている方がいました。好きなことを思い切りやっているうちに、段々と「自分」ができてくると思います。そうなってから初めて過去を振り返ったり、自分や周りの人のことを考えたりする余裕ができるのかもしれません。 ――大人になってからでも、自己形成して自分自身を救うことはできるのでしょうか? 水谷:元ヤングケアラーの方で、「歳をとるにつれて自分の感情が出てきた」という方が何人もいました。子供の頃は自分を押し殺していたけど、大人になってから徐々に生き生きとした感覚を持つようになる方もいます。人には絶対に回復力があるので、それが失われたように見えていただけで時間が経って現れてきたのだと思います。
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