見た目がエキセントリックな藍井は、性格も難あり。司法試験合格者数がすくない底辺ロースクールで貴重な3名の合格者は、すべてが藍井の元から排出されている。通称「藍井塾」では、天才的な分析力で出題傾向を叩き込む無駄のない勉強法を理想とする。
ここに入塾すると必ず合格できることから、彼はメシア(救世主)と呼ばれてもいるが、学生たちには恐ろしく威圧的な態度でのぞむ。藍井が教室に入った瞬間、学生たちは縮み上がる。教室内の空気を一変させる凄みがあり、山田はそこにいるだけで空間を支配してしまう。
温和な寄り添い型のスタイルをとる雫によって藍井は、ときにペースを狂わせながら、わずかに愛嬌のある表情をみせたりすることもある。雫が担当する実務演習で藍井は適当な席に座り、ぶっきらぼうに参考書籍を読みふける。誰よりも存在感がすごい。
心情の変化が見えづらい藍井を演じるにあたって、山田は微妙に強弱付けながら、緩急メリハリある芝居で魅せる山田裕貴スタイルを確立させた感がある。
もうひと作品、2023年の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合、毎週日曜日午後8時放送)でも、山田は慧眼の演技力を見せている。
同作で山田は、松本潤演じる主人公、松平元康(後の徳川家康)を「徳川四天王」のひとりとして支えていくことになる本多忠勝を演じている。これが藍井以上になかなかのくせ者なのだ。桶狭間の戦い直後、元康が身体を休める大樹寺で切腹しようと試みる場面がある。忠勝は、軟弱な元康のことをただひとり、「殿」とは呼ばず、「俺は認めぬ」とかたくなな態度をとる。
切腹の介錯(編集部注:切腹する武士の苦痛を軽減するため、介助者が背後から首を刀で斬る行為)を引き受ける忠勝だが、彼と対話するうちに元康は思いとどまる。
筋だけは通そうと介錯を買って出た義理立てもさることながら、結果的に主人の心境を変化させる武勇は、ものの本質を見抜く慧眼の持ち主ゆえだろう。忠勝役を通じて山田もまた役柄の本質を丹念な役作りで演じ込む。まさに慧眼の俳優の力技だと言える。