Lifestyle

マツコ「本質をついてますよ」と絶賛。芸人やす子の自作曲の魅力とは

「だったらいいのに」繰り返しが自然に入り込んでくる理由

 まず今年1月にアップされ、現在までに6.8万いいねを獲得した「だったらいいのに」。メロディやハーモニーを加える音色は一切なく、リズムマシンのドラムの音のみ。  歌詞は“~だったらいいのに”という叶わぬ願いを色々なバリエーションで表現しつづけて、メロディは2パターンをひたすら繰り返す。ここには展開と呼べるような起伏もなければ、膝を打つ説得力もありません。  にもかかわらず、いや、だからこそなのでしょうか、この歌は自然に入り込んできます。すべてを“だったらいいのに”という構文に落とし込むことで、曲を特徴づける明確なパターンが生まれる。  これはカナダのシンガーソングライター、ニール・ヤングが言うところの“アイデア”に当たる部分で、作曲において最も重要なモチーフです。やす子の曲はこの着想に揺らぎがないので、余計なものを後から付け足さなくても成立するのですね。  ここにBメロやサビにあたる部分を加えたり、歌詞に“だったらいいのに”以外のオチを加えたりしたら途端に色あせてしまうでしょう。

歌いだしがキャッチーで印象に残る「今日の晩ごはん」

 2021年7月に自身のYouTubeチャンネルにアップされたギター弾き語りの「今日の晩ごはん」も勘所(かんどころ)を押さえた一曲です。  こちらも“昨日はラーメン食べたから今日の晩ごはんはご飯にしようかな”と繰り返すだけ。ギター初心者が押さえられる最低限のコードをぐるぐるとループしながら、ごく限られたメロディで曲を構成しています。  でもつまらなくないから面白い。<どうしようかな>の歌いだしがとてもキャッチーだからです。言葉の中にあるリズムと抑揚(よくよう)がメロディと完璧に一致しているので、いきなりサビのように印象に残る。  たとえば、同じお笑い芸人の曲で「ムーンライト」(くず)というのがありました。あの曲を聴いたときも、歌いだしが前フリではなく曲全体のトーンを決定づける役割を果たしていると感じました。 「今日の晩ごはん」もその意味で全部サビなのです。やす子がリスペクトするビートルズみたい、とはさすがに言い過ぎか。
次のページ 
つたなく見えても奥底には豊かな音楽的素養が
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ