――『推しが辞めた』が生まれたきっかけを教えてください。
オガワサラさん(以下オガワサラ):自分が推していたグループのメンバーが脱退したことがきっかけです。その子は、私が推していたメンバーではなかったのですが、私はメンバー同士の関係性が好きだったこともあって、とても苦しかったんですよね。メンバーが1人抜けるだけで、今までとは違うグループに見えてしまったというか。半年くらい引きずりました。
その一方で、辞めた理由に関して、ファンの中でいろんな憶測が飛び交ってて。「親がヤクザに追われている」とか(笑)。あくまで憶測なのは分かっていても、内容が強烈すぎて、作品として書きたいと思ったんです。
――先生自身も「推しが辞めた」経験をされたことはあるのでしょうか?
オガワサラ:厳密にはないかもしれません。ただ、近い経験でいうと、好きだった女性アイドルの卒業で作品の世界観への解像度が上がった気がしています。ちょうど『推しが辞めた』を書き始めた頃だったかな。彼女の場合は“卒業”なので、作品とは微妙に異なりますが……。
「払ったお金の分の対価を求めてしまう」推し活の苦しさ
――『推しが辞めた』はキラキラな推し活からそれぞれ事情を抱えたファンの話へと転落する物語の広がり方が本当に見事です。まず最初に物語の全体像を決めたのでしょうか?始まりと終わりのイメージだけを決めた形でしょうか?
オガワサラ:最後に描きたいことは決まっていました。「苦しいこともたくさんあるけど、オタクでよかったなと思えるような推し活がしたい」という願いを全編に散りばめています。
――推し活の“苦しい面”というと具体的には?
オガワサラ:例えば、握手会に行ったとしても「ちゃんと覚えられてるのかな」って不安になってしまうんですよね。ライブですごく良い席が当たっても「今日目が合わなかった!」って勝手にへこんだり(笑)。アイドルと分かっていながら、払ったお金の分の対価を求めてしまうことってあると思うんです。私も自分が思ってる以上のことが戻ってこないと、満足できない頃もありましたね。
オガワサラ:あとは推しに対しての距離だけじゃなくて、(推しにかけた金額を)周りのファンと比べてしまう部分もありました。現場に行くと、なんとなく分かってしまうので。
――最終回の脱稿時に「オタクが故に苦しみながら書いていた」とツイートされていましたが、具体的にどんなところが苦しかったのでしょうか?
オガワサラ:汚い感情をうまく伝えることが、結構難しかったです。あとは、オタクとしての感情をほとんどそのまま吐き出したような感じなので「これが皆さんに読まれるのか~」とは思っていました。
【マンガ第1話後半の続きはこちら】⇒
突然の推しの脱退、掲示板での憶測がリアル
【インタビュー前編】⇒
推し”活資金「どっから出てんの?」オタ友にも言えない懐事情。作者を取材<漫画>
【マンガ第1話前半から読む】⇒
<漫画>風俗、パパ活、転売、親金……キラキラとした「推し活」の裏側
【オガワサラ】
DAYS NEOへの投稿をきっかけに、2020年ヤングマガジン38号に読み切り『pm7:20』が掲載。その後、第83回ちばてつや賞ヤング部門にて、『わたしのかみさま』で優秀新人賞を受賞。2021年6月からコミックDAYSにて『推しが辞めた』を連載開始。
Twitter:
@saraogawa_
Instagram:
@saraogawa_
<漫画/オガワサラ 取材・文/すなくじら>
すなくじら
映画やアニメ、漫画、アイドルなどのエンタメジャンルを得意とするライター・インタビュアー。休日はもっぱら動画配信のサブスク漬けで、Netflixオリジナルが三度の飯より好き。