調理の過程が描かれるか、描かれないかで、その人物の感情の推移が表現される。新名は、そういう複雑さを持った人だ。せめてもの献身として、楓のためにカモミールティーを淹れる3分間でさえ、新名には苦痛になっている。楓のために何かをすることが、すでに新名にとっての愛の不毛を意味している。 　ポーチドエッグを食べる楓に対して、本音を言おうとした瞬間だった。楓に仕事の電話が入り、夫婦の数少ない貴重な会話がそこで断ち切られてしまう。「行ってきます」と言って出かけようとする新名の低いトーンには、もう楓への愛は感じられない。 　愛の不毛に踏ん切りをつけようとする新名だが、彼の心は同じ営業部の吉野みち（奈緒）にベクトルが向いている。新名の愛の不毛が行き着くところは、不倫か純愛か。いずれにしろ、社員研修旅行で、みちとの道ならぬ不貞が行われることは間違いない。 　さて、旅館と言えば、浴衣である。となると期待してしまうのは、岩ちゃんの浴衣姿しかない。彼の浴衣姿なら、ある新郎新婦の結婚式を巡るドタバタコメディが描かれる映画『ウェディング・ハイ』（2022年）ですでに目にしている。 　浴衣を脱いでパンツ一丁。露天風呂では仁王立ちになってバックショットの全裸（お尻が丸見え）。特大のお宝シーン満載だった。『あなたがしてくれなくても』第4話では、もちろん岩田の浴衣姿（宴会でちらりとみちを見つめる瞬間が素晴らしい）は見られても、残念ながら、入浴場面は拝めない。 　となると、浴衣姿への期待をはるかに上回る濡れ場を待つしかない。みちが宿泊する部屋に星を見に行った新名が、月の女神アルテミスの神話について話す（そう言えば、岩田がパフォーマーの「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」のヴォーカルØMI（登坂広臣）のソロ活動のモチーフになったのがアルテミス像だった）。 　みちの手をぐっと握る新名の燃えるような瞳から、浴衣姿のふたりが流れるように抱きしめ合う。たとえこれが不貞であっても、この客室内の甘い不倫の時間には抗えそうにない。